「入っていい?」
「ちょっとまって」
 マミがタオルを手渡してくれた。
 私は慌てて涙を拭った。
 それでもすぐに溢れてくる。
「入るよ?」
「まってよ!」
 ドアが開いた。
 私はまだタオルを顔に当てて涙を拭っているところだった。
「どうしたの公子、木更津になにかされたの」
 神代(こうじろ)さんだった。神代佳代(かよ)。クラスで委員長をしている。
「何もしてないって」
「なんでもないよ、大丈夫」
「いいや、なんかあったっしょ。絶対なんかあった」
 いつも思うのだが、神代さんは委員長って柄じゃない。漫画でいうところの、五月蝿い新聞部の部員という感じだ。
「何のようですか?」
 神代さんは部屋に入ってきて、ドアを閉めた。
「そうそう。そうでした。伝えたいことがあるんでした」
「私に?」
 神代さんはうなずくと、マミの椅子をひっぱってきて、私の正面に座った。
「今日転校してきた佐津間(さつま)君ね、公子(きみこ)に悪いことしたって言ってたよ」
 はぁ? こっちがどれだけ傷ついたと思ってんだ。悪い事、だと思った時に言うのを止めろよ。
「ちょっと待って」
 私はこのタイミングでマミに説明したいと思って切り出した。
「マミに話したいから、その話ちょっとまってくれる?」
「いいけど」
 私はマミに向き直って、言った。
「今日私が倒れた話なの。マミが居ない状況でホームルームになったの。転校生が紹介されて、その転校生がドライな奴で。皆は質問したがってるから、佐藤が適当に三人選んで質問させたの。私、この佐津間って転校生に質問しなきゃならなくなったの」
 出来る限り省略しようとしていた。
「転校生は先に教室に入って色々話ししてたんよ。そこから担任と公子が入ってきてホームルームになったわけ。半ば話しを聞いていたから、他のクラスの連中からしたら改めて紹介ってのも変だなぁ、って感じだったのね」
 神代さんがそう付け加えた。
「その時、私なんかアガっちゃって。本当に頭んなか空っぽになってみたいで。なんだっけ、そう、学校の印象は? とか質問したの。転校生は『別に』とか言っちゃってさ」
「そうなのよ、佐藤がフォローするつもりで『なんかあるだろう』とか言ったせいでさ、公子が」
 私は神代さんがその先を言いかけたところを止めた。
「ごめん。そこは私が言うね」
 深呼吸した。
 動悸は激しくなって、また倒れてしまうかと心配になる。
「……転校生、私の声、ババアみたいだって」
「その転校生、酷いこと言うね」
 苦しい。実際、あの時は、その先がショックだったのだ。
 神代さんが椅子から立ち上がって、私の横に座った。
 そして背中をさすられた。
「そ、その一言でクラス中が笑って」
 息が止りそうな感じがする。
「大丈夫、公子」
 マミに倒れるようによりかかってしまった。
「ごめんね。委員長の私も、フォローできてなくて。あとさあ、あんときは佐藤先生もなんかフォローして欲しいよね」
 フォローがあればなんとかなったろうか。
 そういう状況じゃなかったかもしれない。単に私が弱いのだ。弱いから、そんなことで倒れてしまった。
「本当に大丈夫? ね、公子?」
「ごめんね、変な話蒸し返しちゃって」
「いいの、どのみちマミに説明するんだったから」
「でさ、その佐津間くんね。謝ってたから。『委員長、誰か白井の知り合い知らねえか』って聞いてくるからさ。私で大丈夫だよ、って言ったら『謝っておいてくれ』だってさ。あれだよ、ほら、小学校の時に男子が好きな女子にちょっかいだしてくるやつ。あんな印象なんだけど」
 ふん。私はあんな男は趣味じゃないし、小学生レベルの求愛方法も知らないし興味もない。
「結構イケ面だし、付き合っちゃえば」
「え? どんな奴なの?」
 マミは私の前に差し出された神代さんのスマフォを覗き込む。
「へぇ。一般的にはイケ面なんだろうね」
「マミは興味ないの?」
「ちょっと趣味と違うかな」
「私も趣味じゃない」