ボクはうなだれた。
「朝昼晩と同じもの食べるボクの身にもなってよ……」
「朝食も同じだったのね」
 電車が入線してきた。
 いつものように、二人で並んで立っていると、窓の外に田畑まさみが現れた。
 こちらを見て、ニヤッと笑い、そのまま別の車両へ走り去ってしまった。
 遅れて頭痛がする。
『まさみでしょ、どこ?』
 人混みの中を出ていこうとするヒカリ。
『やめて! もうそこにはいない』
『けど、同じ電車じゃなきゃ間に合わないでしょ』
 ヒカリが暴走して意識を奪うかと思われた瞬間、ボクはお腹の痛みを|意識的(・・・)に感じた。すると、ヒカリは目の前にあらわれて睨みつけた。
「どうしたの真琴。どこか具合悪いの?」
「三日目だからね」
「あ、ごめん。そうだったね」
 薫はボクの目線の先を探しているようだ。
 ボクは幻のように現実に重なって見える『ヒカリ』の姿をみていた。
『なぜボクの邪魔をするの』
『ヒカリもボクと薫の邪魔をしているでしょ?』
『……』
 お腹の痛みとともに、ヒカリの姿が消えた。
「大丈夫、昨日買った痛み止めもってきてないの?」
「持ってきてる。けど、何時飲むか考えてるんだ」
「眠くならないやつでしょ?」
「そうなんだけど」
 眠くなるかとかが問題ではない。効き目が切れた時はヒカリからボクに戻ってしまう。リレーを走っている最中にそれがあったら…… 足がもつれてしまう。何度も何度もそういう光景が頭の中で再生される。
「効果の時間は昨日と同じ、という訳にはいかないわよね」
 薫は何か考えている。
「だったら、もう、効くまでが三十分、効くのは一時間、リレーは最後の最後なんだから、お昼休みの最後で痛み止めを飲めばいいんじゃない?」
「一時として効き始めが一時半。そこから一時間として二時半までには確かにリレーは終わっている…… 大丈夫そうね」
「そう、それで行きましょう。効き目が遅れても問題ないし」
「効果がすぐおわっちゃったら……」
 言いかけたところで電車が動き始めた。
「きゃっ」
 ふらつく薫をすぐにささえる。
「薫、大丈夫?」
「ありがとう。痛み止めの効果は一時間はかなり短いと思うよ。本当はもっと続くもの。だから心配しなくていいんじゃない? それより飲み忘れないように」
「そうだね」
 そうだ、何時飲むかもそうなのだが、飲み忘れたら大変だ。
 午前の徒競走とダンスは残念だがヒカリの実力をフルに発揮させるのは諦めて、午後のリレーだけに注力しよう。
 それからしばらく、薫とたわいない話をしていた。
 運動会で両親が写真を取りやすいように髪飾りをつけたりしたことない、とか、誰かが持ってきたお弁当がどんなにすごかったとか、そういう話だった。
 電車がいつものカーブに差し掛かり、いつものように薫がよろめくと、ボクはそれをささえた。
「……」
 薫の表情が少し変だった。
「真琴、聞いてもいい?」
「うん」
 薫は窓の外の方へ視線をそらした。
「一昨日は涼子が同じところで降りたって聞いた」
「……」
 どう答えるか全く考えていなかった。
 肯定して何事もなかったふりをするべきなのか、嘘でいいからその後に別れたように伝えるべきなのか。
 それとも今ここで真実を伝え……
「真琴、その後どうなっているのか、聞いてもいいよね」
 問い詰めるような強い言い方ではない。
 普通に、友達に一昨日あったことを聞くような口ぶりだ。
「えっと、夜遅かったし、母が言う通りに、涼子はボクのうちで泊まったよ」
 言ってしまった。
 ただ、本当に何をしたのかは言わない。
 母がそう言ったのだ。真実は曲げてない。
「そう。楽しかった?」
「帰ったのが遅かったからね。すぐ寝ちゃったよ」
 母から見ればそうだったに違いない。