このまま直接触ってみたい……
 こんな時でも、エロい気持ちはなくならないなんて、どこまで変態なんだろう。
「マミ。起きて」
 朝の救急救命措置のことを思い出す。
 今は息をしているから、別に必要ないよね。
 けど、今ならしても気付かない。朝はこっちの気持ちが動転していて、とてもキスという感じじゃあなかった。
 だから、今なら……
「き、公子」
「気がついた? 良かった」
 どうして寸止めなの。
 いや、そんなことを考えるべきではない。
「私、寝ちゃったの?」
「そうみたいね。何か、意識を乗っ取られたみたい。マミ、今日の出来事って、どこまで覚えてる?」
「ここで着替え始めたのは覚えてるんだけど」
「じゃ、じゃあ、私がマミの背中洗ったこととかは?」
「……」
 良かった。私が背中に胸を押し付けたことは、なかったことになっている。
 そう考えると、都合が良かったとも言える。
 考えている内、浴場の床に転がっているカチューシャに気付いた。
「マミ、ちょっとまって。先にしなきゃいけないことがあった!」
 マミを座らせて、赤黒でラインの入ったカチューシャを拾い上げた。
 見た感じは電極らしいものもないし、軽さも本当にただのプラスチックのようだった。カメラのレンズのような部分もない。こんな程度のもので、脳をコントロールすることが出来るのだろうか。
「どうしたの?」
「これがマミの頭についていたのよ…… 確か、確か刑事さんの車に乗っていた時にはつけていた、はず」
「赤黒の組み合せ好きじゃないから、私のじゃないわ。誰かにつけられたのね」
 黒い部分は中がレンズになっていてもわかりにくいだろうから、とりあえず風呂場から出して置いた方がいいだろう。レンズがついてたとしたら、もうかなり色んなことが見られてしまっただろうけれど。
 私は脱いだ服の中に押し込み、万一後から誰か入ってきてもその娘(こ)の裸が写されないようにした。
「公子、さっきの機械で、私達の裸も、撮られちゃったのかな」
「……」
 カチューシャが機械のようじゃなければ、機械のようなものはまだマミの頭についているのかもしれない。
「マミ、ちょっと頭洗ったげる」
 乗っ取られているのだとしたら、更に色々とやっかいなことになる。頭を触って、他にないか調べてしまえばいいのだ。
「うん。お願い」
「?」
「どうしたの?」
「ううん。じゃあ、座って」
 マミの持ってきたシャンプーを手に取り、頭皮を洗い始めた。
「痛い」
「ご、ごめん強かった?」
 まずい。自分と同じような感覚でやってしまった。
「違うの、シャンプーが目に入って」
「洗い方は大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。公子、さっきやってくれたみたいにしてくれない」
「え?」
 ドキドキし始めた。
 さっきのこと、やっぱり覚えてるんじゃないのだろうか。
 それとも救急救命措置的なキスが欲しいということなのか。
「ど、どういうこと?」
「シャンプーが目に入るから、公子の膝の上に頭乗せていい?」
 おお! 神よ。
 いや、私は無宗教なんだからこんな時だけ神に感謝するのも変だが。
 さっきの乳揺らしが再び堪能できるとは……
「いいよ。はい、どうぞ」
 腿の上に頭を載せ、頭皮を丁寧に指でしごく。
 微妙に体が震え、マミのふくよかな胸も揺れる。
 綺麗なおっぱいだ……
「気持ちいい……」
 えっ、今なんておっしゃいましたか。
「他人に洗ってもらうって気持ちいいね。子どもの頃、こうして洗ってもらったとこと思い出しちゃった」
「……」
 一気に気持ちが萎えた。
 同時に自分も昔の、そういう小さな子どもの頃の記憶が蘇ってきた。
 行方不明の友達のことも。
 頭の隅々まで指を這わせたが、機械らしいものや電極、パッチのようなものが取り付けられていたりはしなかった。つまり、さっきの言動は正真正銘のマミの意識、マミの体なのだ。
 シャワーで丹念にシャンプーを流し終えると、マミの体を起こし、リンスを塗りこむように髪につけた。
 もう一度、綺麗に流し終えると、マミは笑顔で振り返った。