いや、教えていないが、多分、鬼塚刑事は知っている。
 というか、刑事も同じ能力があるに違いない。だから『呼べ』と言ったのだ。
 明日はカチューシャを調べてもらおう。
 カチューシャをつけたマミが最後に言った言葉『もっと強くなれ』がどういう意味なのか、考えても分からない。カチューシャを調べるとしたら、頼れるのは鬼塚刑事しかいない。どうやって『呼べ』ばいいのか、やり方は分かっていないが、刑事なのだから渡すことぐらい出来るだろう。
 そんなことを思っているうちに眠気がきて、そのまま寝てしまった。

 マミと歩いて学校につくと、教室から男が出てきて、前を塞いだ。
「何か用?」
「佐津間(さつま)くんだよね」
「ああ、あの、転校生の。私は昨日休んでいた、木更津麻実(きさらずまみ)。私も何週間か前は転校生って言われてたのよ。よろしく」
 佐津間は会釈した。
 何も言い出さないから、私が切り出した。
「何でしょう?」
「すまない」
「……昨日のことはもういいです」
「佐津間! ここに居たのか。お、ババアも来たか?」
 マミが怒った。
「木場田(こばた)なんて言い方すんのよ!」
「佐津間が言ったんだよ。それよりお前体大丈夫なのか」
「ごらんの通り大丈夫よ」
「ババアも病院行ったけど大丈夫か?」
 やばい、なんでこんなことになるんだろう。
「佐津間とババアはなにやってんだ?」
「佐津間がババアにコクってるぞ」
「転向していきなり告白かよ、ほら、皆見に来い」
「おーい。皆。告白大会だぞ」
 ぞろぞろと教室から出てきて、また視線を集めてしまった。何でこんなことになるの。
 視界がどんどん霞んでいく。
 また、昨日と同じだ。
「やめろ。お前ら教室に入れ!」
 佐津間が教室から出てくる連中を追い返していく。
「いじめるなら俺にしろよ、白井は関係ねぇだろ」
「お前コクったの?」
「いいから、黙って、教室戻れよ」
 良く見えないが、佐津間が何か一生懸命やっているのは分かった。
 けれど、私は立っていられなくて、マミにすがりついた。目を閉じると、マミがしっかり抱きしめてくれた。だから、聞こえる音はマミの鼓動だけになった。
 何か、眠っているような気分だ。
 遠くから教室の会話の声が聞こえてくる。
「大丈夫だから、安心して」
 そしてポンポン、と肩を叩かれる。
 教室の中に入って、椅子を並べ、私とマミは並んで座った。甘えるようにマミに抱きついていた。起立も礼も、そのままにしてくれた。
 気がつくと、マミが自分のタブに何か書き込んでいるようだった。もう授業が始まっているのだ。
 私がマミの邪魔をしているのは明らかだった。
「ごめん……」
「いいのよ。公子が具合が良くなるまで、こうしてていいの」
 ありがとう。
 勝手に涙が流れてきて、マミの服を濡らしてしまった。
 マミと友達で良かった。
 安心したせいか、先生の声も聞こえなくなった。マミの鼓動の音だけになって、そのまま眠ってしまった。
 一時間目を殆ど寝て過ごしたが、二時間目と三時間目は普通に授業を受けることができた。
 四時間目が始まる時、マミがぽつりと言った。
「昨日言ったこと、撤回する。私も一緒に〈鳥の巣〉の中に行く」
「えっ?」
 マミはうなずいた。
 きっと私のせい、だよね。
 私が弱いせいだ。
 そういう思いと、一緒に行ける喜びとが、複雑に混じり合っていた。
 思わず抱きしめた。
「ありがとう、マミ」
 その上から、抱きしめられた。
 温かかった。
 一緒だよ、マミ。一緒に行こう。
 何があっても私がマミを守るから。

 放課後、カチューシャを高校近くの警察署に持っていった。しかし、そこでは『鬼塚(おにつか)』はいないと言われた。『よその署かもしれないから調べてもらって、鬼塚刑事に渡してくれ』とお願いした。
「だから、署員の情報を君たちに話すわけにはいかないんだ。だから直接渡してもらうか、遺失物としてあずかるしかない」
「けど、どうやって鬼塚さんと会えるか分からないんです」
「だから、そいつが刑事かどうかも分からないんだから、警察署で教えられる話じゃない」
「確かに警察手帳をみせてくれてました」