小さなバスがやってきて、また何人か降車し私達の後ろへ並んだ。
 マミの後ろに並んだおじさんが言った。
「珍しいな、女の子がいるよ」
 言うなり、口元がニヤけたせいか、何か身の危険を感じてぞっとした。
 確かに、並んでいる人の列を見ていたが、女性はゼロではないものの、割合としては九対一かそれ以下だった。〈鳥の巣〉の中の事件は全く報道されない。やはりマミを誘うべきではなかった、と後悔した。
 マミはそんな気にしていないように、おじさんに話しかけた。
「女の子はそんなに珍しいですか?」
「女性はいるけどね。君らみたいに若いのは初めてみたかな」
「ちゃんと資格もってますよ」
 学校から出してもらったコーディング資格のことだった。
 正直、あまり胸を張って言うほどのレベルではない。
「へぇ。言語は何やんだい?」
「WEBスクリプト」
 後ろのおじさんだけではなく、やり取りを立ち聞きしていた周りの人達が爆笑した。
 マミの顔が真っ赤になってしまった。
「制御系言語ばかりが偉いみたいなのやめてください。おじさんたちは他人の気持がわからないんですか」
 私の声の大きさのせいか、一瞬警備の隊員が一斉にこっちを向いた。
「あっ、いや、すまんそういうつもりはないんだ」
「いえ、わかってくれればそれで結構です」
 それから、プレハブにつくまで周囲は静かになってしまった。私はマミにどう声をかけていいのかわからず、マミもうつむいてしまっていた。
 プレハブ小屋にはいると、持ち込み物を検査された。中に持ち込めないものを持ってきている人は、宅配で送り返すか、ここで捨てるしかなかった。私達のバッグの中身のチェックは女性の担当員がやってくれた。
 プレハブ小屋を抜けると、ゲート内に進んだ。
 〈鳥の巣〉の中だ。
 七年。
 入りたくても何も出来なかった七年前。某システムダウンの時は、小学生だった。高校生になって、やっとこの内側に入れた。
 きっとこの中に答えがある。
 一人ひとり、小さな紙切れを渡された。
 3Dバーコードが書かれていて、フォルダーに入れて首からぶら下げる。スキャンする度に行き先のバスの位置を指示される。
 私とマミの行き先に止まっていたのは、学校のマイクロバス程度の小さいバスだった。
 中にはドライバーと、乗客のおじさんが一人座って寝ていた。
 ドライバーに「よろしくお願いします」と告げて、奥の並びの席に座る。
 窓の外には田舎町の小さな駅前の光景があった。ただ、街のドアというドア、入り口という入り口には土のうやら廃材が積まれていた。そして窓からの灯りは一切ない。
 廃墟。
 避難地域に指定された内側では、誰も住むことが出来ない。住むことが出来ない中に入って、誰かが作業しなければならないのが不思議な感じだ。これだけの人が必要なのに、中では人は暮らせない、というのだから。
「公子、この車もそうだけど、あのバスとかも変じゃない?」
 マミが指差す方向を目で追った。
「えっ、なに? 分からない」
「よく見ると、ドアがないでしょ?」
 じっとバスの様子をみる。確かに乗り込む人の流れで気付かなかったが、よくみると戸袋の中にもドアがない。
「ほら、あっちのタイプのバスならもっとよく分かるよ」
 扉が車両の外側に出てくるタイプのドアがあるはずだった。ドアらしい出入口がまったくない。
「このバスも?」
「ほら。ドライバーさんのところも無くなってる」
 〈転送者〉の侵入経路をすべて絶っているということなのか。〈転送者〉が単純に何もない空間から出現しないことを考えれば、ドアや扉の類を排除すれば出てこない、そういうことなのだ。
 私はもう一度逆側の、廃墟となった駅前の様子をみた。
 すべての出入口は、もうドアや扉として機能しないようになっている。見るとマンホールも側溝の蓋も、全くなくなっている。
「そうか。そうやって〈転送者〉が出てこないようになっているんだね」
 マミはバスの後ろをみた。
「あ、ここにも小さいドアがあったのね」
「本当だ…… どうりで寒いと思った」
 マミが後ろを見ながら、ポツリと話した。
「この〈鳥の巣〉のゲート自体はドアじゃないのかしら」
「……」
 まさか、そんな間抜けなことをやる訳ないよね。
 そう思いながら私はゲートの大きさを目で追った。