「お前が連れて避難させろ。一番近い施設に」
 一人がうなずく。
 残りの男たちは背負っていたライフルのようなものを確認しながら、持ち替えた。
「お前も銃を構えろ」
 私の横にいた迷彩服の男も、銃を構えた。
「早く逃げろ」
 そう言って、四人は私が行こうと迷っていた通路へと歩き始めた。
 横にいた男が後ろに周り、私の手錠を外して言った。
「さ、こっちだ」
 私達は最初に入った入り口へ、階段を降りた。
 二十四番のカウンター脇から外に出ると、馬が繋がっていた。
「馬乗ったことある?」
 私は首をふった。
「そりゃそうか。だが、今は非常事態だから、乗ってもらうよ。誘導はこっちがするから、君は手綱を持ってさえいれば大丈夫」
 馬の鞍にしがみつき、迷彩服の男の膝を足がかりにしながら、乗り込む。
 指示されたように手綱を握ると、男は軽々ともう一頭の馬へ乗り込む。
 コツコツと音がして男の馬が回り込むと、私の馬の横っ腹を蹴った。
 弾かれたように馬が走りだした。
 跳ねるように激しく馬が上下に動く。
 私は痛くてまともに座っていられなくて、怖かったけれど、片手で鞍の出っ張りを握って腰を浮かせた。
 しばらくすると、男の乗った馬が追いついてきた。
「!」
 滑走路を叩く蹄の音の合間に、銃声が聞こえた。
 男は後ろを振り返る。
「君は振り向かずに真っ直ぐ施設に逃げろ」
 男の馬は旋回し、空港施設へ戻っていくようだった。
 それを見たせいなのか、自分の馬も速度を落した。
 鞍におしりを付けて、両手で手綱を取り直すと更に走るスピードが緩くなった。
 私は恐る恐るうしろを振り返った。
 もう遠過ぎて、何も見えなかった。日中であればもしかしたら何か見えたかもしれないが、真夜中近くの時間帯であり、灯りも一切ない〈鳥の巣〉の中では、月と星の光で建物の輪郭が分るぐらいだった。
 そのまま入ってきた方へと進むと、金網沿いに空港の外へ出れる場所を探した。
 馬は完全に歩きはじめていた。
 どうすれば馬を再び走らせれるだろう、と思い手綱を引いたが、逆に止まってしまった。
 私は馬に話しかけた。
「君と一緒に空港の外へ逃げれないけど…… 多分、空港内の雑草を食べればしばらく生きてられるよね?」
 首のあたりをポンポンと叩くと、完全に止ってしまった馬から飛び降りる。
 少し走って、跳躍した。
 金網を飛び越え、空港脇の道へ戻ると、そのまま道をマミがいる建物へ駆け戻った。
 最初に入った出入口から中に入ると職員が目の前に飛びだしてきた。
「どこに行ってた! 緊急事態が起ったぞ」
「空港施設の件ですか?」
「場所までは連絡がないが、近くで〈転送者〉が出た。地下駐車場にバスがあるから乗って待機して」
 うなずいて、職員の後ろについて早足でついて行くと、男が一人やってきた。
「すんません、大変なことが!」
 男は慌てた様子だった。確か、私達がここについた時にいた業者の人。
「なんですか、もう大変な事になっているのは連絡済みの筈ですが」
「違う違う。そうじゃなくて、納品したサーバーラックに……」
 業者の人は、職員と私を追いかけてくる。
「君といい、あの業者といい…… そうだまだもう一人いたぞ。君と一緒に来た女の子、その子も駐車場に来てないし」
 私は職員の腕をひっぱって止めた。
「ちょっと待ってください。マミが? マミがいないんですか?」
「だから、大変なことがあるって、こっちの話を聞け」
「あなたは何なんですか?」
 業者の人が、ため息をついてから、話しはじめた。
「……女の子がサーバーラックを見に来たんだよ。そうしたら、こっちが頑張って組み立てたサーバーラックを壊しやがって」
「壊す…… マミがですか? マミの事?」
「名前なんか知らねぇよ。折角付けたサーバーラックの扉を端から外していきやがんだよ」
『なんだと/なんですって』
 職員と私は同時に絶叫した。
 この業者には、ここが〈鳥の巣〉内だという感覚がないのだ。あるいは建物内だから関係がないと思ったか、なにかそんな安易な誤解なのだろう。
「とにかくサーバールームに行こう」
「君は駐車場に避難して」
「マミがいるなら、私も行きます」
「言うことを聞いてくれ」
「サーバーラックはセキュリティ上コイツが必要だって、いつも親方から言われてんだよ。付けて当然だ」