「真琴、右のドア!」
 薫に言われた方を見ると、神田がドアを開けて逃げようとしていた。しかし、鍵が掛かっているのかなかなか開かない。
 ボクは急いで他の生徒をかき分けながら、神田の方へ向かった。
「私も手伝うよ」
 涼子が言ってくれた。
 神田はこっちに気づき、反対の扉へ向かうところを涼子に止められた。
 臨時の更衣室となっている為、一方の扉だけを開放しているのだ。神田さん本人なら知っている話だが、姿は同じだが、今は本人ではない。
「離せ!」
 涼子が羽交い締めにしているところに、ボクが追いついた。
「どうしよう?」
「何言ってるの、早くしてよ」
「涼子、どうしたらいいの?」
「体が触れなければ始まらないんでしょ? 真琴から脱ぎなさい」
「えっ、ここで脱ぐの?」
「ここは更衣室だから、何の問題もないでしょ」
「そういうことじゃなくて」
 ボクはいやいやながら脱ぎ始めた。
「何をする気だ!」
 神田は何が始まるのか分からないようだった。
 涼子は暴れる神田をたくみに抑え込んでいる。
 ボクは体操着の上を脱いで、床に投げ捨てた。
「!」
 涼子が神田の体操着をめくり上げ、ボクの頭から被せた。
 ボクは神田さんの体操着で一体になった。
「ぎゃっ! 何、変態!」
「苦しい」
「じゃ、頑張って。他の人のコントロールは私が解くから、心配しないで」
 神田と密着しているのは良いのだが、とにかく苦しかったので、ボクは首を振ってなんとか苦しくない位置をさぐった。
「こら、くすぐったい、変態、出ていけ」
「これ、体操着の中に居ないとだめ? すっごく苦しいんだけど」
「他の生徒が気がついた時に、まだおかしくない格好がこれだと思うけど、それとも神田さんも裸にすれば良かったの?」
 確かにこれだけの人数が同じ部屋にいる状態で戦うのは初めてだ。
 体育祭のヒロインから一転、更衣室の変態に落ちてしまうのは恥ずかしい。
「あれ…… 喋れるってことは、真琴、まだ夢の中に入れないの?」
「……」
「やばくない?」
 確かに、このまま入り込めないとなると、神田さんが危ない。
「このままだと、本当に寝ている女生徒を襲う変態女子になっちゃうし」
「そういうヤバさなの?」
「真琴、こっちに返事をしてないで、集中して。神田さんがエントーシアンに乗っ取られちゃうわ」
 変な話しをしてくる割に、涼子の方が真剣に現状を捉えている。
 ボクは何故、夢の中に入り込めないのかを考えた。
『何かキーがあるはず』
 ヒカリが急に話しかけてきた。
『キーって?』
『分からないかな。ボクのイメージを真琴の言葉ではそれが一番近い気がしたから、そう言っただけ』
『キーを探すってこと?』
 ヒカリは首をひねった。
『……キーを差し込むところを探す、ということみたいだ』
 鍵穴? それは神田さん本人のことを指すんじゃないのか。
『鍵穴、をつくっておいて、その鍵穴のことをきっかけに神田さんと神田さんのエントーシアンが入れ替わるんだ。スイッチのようなもの、というのが適切なのかもしれない』
 けれど、スイッチから入り込むわけじゃない。
『今までの鍵穴があまりに無防備だったんだよ。ただ触れるだけでボクの侵入を許していたんだから。ボクも、防御を考えたら、きっとそうする』
 入ってこれないように、秘密のポイントからしか侵入出来ないようにしている、という訳か。
 ボクはこの短時間でそれを探して、神田さんを攻略しなければならない。
『その鍵穴に接触すればいいのかな?』
『どんなきっかけにしているのかは、本人じゃなければ分からない。その箇所に触れればいい、というものではない』
『そんな!』
 ボクは頭を抱えて、膝をついた。
 時間がない。
 どうしろというのか。
『じゃあ、今は無理だ』