「判った、早く出てこい」
「!」
振り返ると、マミの後ろに〈転送者〉が立っていた。
「マミ!」
マミは〈転送者〉に抱きかかえられてしまった。
それを守るように別の〈転送者〉が前を塞ぐ。
思い切り拳を叩き込むと、小さく空気が漏れるような音がして、その〈転送者〉は倒れた。
「君達、早く出てきなさい」
「待ってください! 友達が〈転送者〉にさらわれました」
「いいから、君だけでも出てこないと助からないぞ!」
「皆さんこそ逃げてください。私はマミを助けますっ!」
そう叫ぶと、マミを連れていった〈転送者〉を追った。
〈転送者〉が〈転送者〉を呼びこむように、別の列のサーバーラックからも把手が上り、扉が開いた。
「助けてキミコ!」
新しく転送されてくる奴を無視して、奥へと進む。前を塞ぐ〈転送者〉の暗く赤い目が立ちふさがる。そいつの目と目の間に拳を叩き込むと、さっきと同じように小さな音がして、倒れてしまう。
「弱い!? もしかしてこいつら弱いの!?」
マミは後ろから首を締められ、掴まえられている。
「マミ! こいつら弱いみたいよ!? なんとかして逃げられない?」
マミが手足をバタバタと振り回すと、〈転送者〉は抑えこむのに必死なのか、動きが遅くなった。
近くに来た〈転送者〉をサーバーラックへ押し当てるようにぶつけると、シューと空気が抜けたように倒れてしまった。そんな風に、一体一体は弱いのだが、なにしろ数が多すぎた。
「いったい何体いるの……」
再びサーバーラックから〈転送者〉が出てきた。
見ていると、ラックから出てきた直後、通路を塞いでしまう為、〈転送者〉は自分の出た扉を自ら閉めていた。
つまり、再びその扉から〈転送者〉が出てくる。
「まずい…… この扉を全部外さない限り、いくらでも転送されてくる」
私は手足のすべてを使って、寄り集まってくる〈転送者〉を蹴散らした。
そして、ようやくマミを掴まえている〈転送者〉のところへ辿りついた。
「マミ、一本背負してみて?」
「えっ?」
「相手は弱いの。いいからやってみて?」
そんなに格好の良い一本背負ではなかったものの、柔道の授業でやった通りに技をかけると、〈転送者〉はきれいに投げ飛ばされた。
「マジ!? 私、投げ飛ばした??」
「マミやるじゃん!」
私は親指を立てた。
「弱いね」
「けど、サーバーラックの扉を外さないと、どんどん出てくるんだよ。私が〈転送者〉を倒すから、マミはラックの扉を外して」
マミはうなずいた。
「大丈夫か」
出入口の方から声がする。
「大丈夫です〜 それより、ラックの扉外すの手伝ってください!」
「何だって!?」
そう言っている間にもマミはラックの扉を外し、私は〈転送者〉を二体倒した。
「大丈夫なのか?」
ああ、もどかしい。
「早く手伝ってください!」
職員が恐る恐る出入口から顔を出した。
私が投げ飛ばした〈転送者〉に少し驚いたようだが、すぐにこの〈転送者〉が数以外に有利な部分を持たないことを理解したようだ。
「よし俺たちも分担しよう」
彼らも〈転送者〉を殴る役とラックをバラす役に分かれた。
数が減ったのか、作戦があるのか、〈転送者〉がラックをバラしている方へ近寄らなくなってきた。
「〈転送者〉(やつら)なんか企んでる?」
「見てくる」
私はマミの周りの警戒を止め、〈転送者〉がどこに向かっているのか追いかけた。
出入口から逃げているのかと思ったがそうではない。
長手方向に伸びる壁沿いに、〈転送者〉が集まっていた。
〈転送者〉同士が肩車(E体は首がない為、肩なのかは不明だが)をしたように重なっていった。
「なんか、奴ら重なってる」
肩車した〈転送者〉が前後に並び、左右の間隔も詰め始めた。
「まさか…… 後何枚残ってる?」
「まだ四、五列以上残ってる!」
私は〈転送者〉の固まりに殴り込んだ。
一つ一つは破裂するように倒れてしまうが、すぐに別の〈転送者〉がそれを埋めてしまう。
黒い〈転送者〉が壁のようになって迫ってくる。
集まろうと寄ってくる方にも蹴りを入れて倒す。
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