小さな駅に、ホームの長さと同じぐらいの各停列車が止まり、中からどっと高校生が降りてきた。駅に停車する列車の本数は、取り立てて少ない訳ではなかったが、駅の近くにある学校へ始業時間ギリギリに間に合うという理由により、この列車は混雑していた。
 ここ堂本駅周辺の路地には綺麗にツツジが植えてあったが、今の時期となると、もう花も終わっていた。駅の北側には、森と呼べるほど広く、木々が生い茂る公園があり、南側に県立の東堂本高校があった。最寄りバス停から東堂本高校までの遠いことと、反対に堂本駅が極端に近いことから、多くの生徒が電車を使った。周辺には公園と高校しかないので、この駅の乗降客はほぼ東堂本高校の学生と教師となっていた。
 新野真琴は、東堂本学校に通う女子生徒の一人だった。電車から降りるなり、こう言った。
「始業に間にあう電車がこれしかないから、混むのはしかたないけど。皆よっかかってくるのは…どうなの」
 
 新野真琴は、短く髪を切っていた。母の影響か自分で自分の髪を切ったりするのが好きで、家で良くそうして切ってしまう為に、髪は伸びる間もない。その結果としてのショートヘアだった。
 話しかけられた同級生の北御堂薫は、真琴の親友だった。
 北御堂の方は対象的に腰まである長い髪を揺らしながら歩いていた。
「しかたないわ。電車の掴まるところって、女の子は届かない人も多いし」
「いや、それだけじゃないでしょ。なんつーか、こう、皆、踏ん張りが足りないんじゃないのかな?」
  薫はそれに答えた。
「だからって、みんながみんな足を大きく開くのも邪魔でしょう?」
「うーん、でもなんか体を預けてくるように来る子が多くない」
「ごめんなさい、私も毎朝何回かそんなことになってしまって」
「いやいや、薫。それは良いんだけど…」
 真琴はこの状況の、根本的なおかしさに気がついていないようだった。薫は気付いてはいても、二人の間ではそのことを口に出すようなことはしなかった。だから二人はいつも『周りが女の子ばかり』なことは話題にならなかった。
 現実を言えば、薫も真琴も女子から人気があった。薫はその女性らしさと美貌から男子からも人気があるのだが、男子からすれば、ちょっと近づけないくらいの気品があった。
 真琴の髪は、あくまで女性らしいショートヘアで、決して男の子に見間違えられるような雰囲気ではないのだが、薫の近くにいる為に対比され『王子』的な扱いをされていたのだ。
 そんな容姿の二人が、いつも一緒に登校するものだから、上級生の間で噂となり、今学期からは下級生も加わって、薫と真琴の乗る車両のみ女子生徒ばかりになる、という事態になっていた。そこだけ見ていると、女子校であるかのような光景だった。
 真琴は、ちょっと声を低くして言った。
「今日は、作戦通りに」
「わかりました。真琴、がんばって」
「うん」
 真琴は見えてきた校舎の時計をみながら、拳をつくった。それは今日やらなければならないことの重大さを表していた。