職員はうなずいて、スマフォで連絡をしてくれた。
「……だから、ウエストのデータセンターに救急車を出してくれ」
「?」
 何か、職員の人がスマフォで怒っている。
「病人が出たんだから、救急用に車を」
 急に声が小さくなった。
「……はい。……はい」
 何か事態が悪化しているような気がした。
「どうしたんですか、救急車は来ないんですか」
「警報が出たままなんだ。警報が解除されなければ誰も動けない。それが規則だ」
「この警報はどこから出てるんですか、〈転送者〉はいなくなっています。電話で言って警報を解除してもらえば……」
「ここの警報はとっくに解除されている。警報は、他の場所だ」
 私は立ち上がった。
 じゃあ、もしかして……
「空港? 空港ですか?」
 職員はうなずいた。
「空港の警報領域はこのウエスト・データセンターへ出入りする道に掛かっている。だからここへ車を移動させることはできないんだ」
「じゃあ、私がマミをその道の向こうへ連れて行きます」
「空港の周囲一キロとなると、ほとんどゲート周辺まで連れていかなければならないぞ。今、空港には軍が入って〈転送者〉を処理している。待つしかない」
「……馬、空港に馬がいた」
「何を言ってる。空港には入れんぞ。軍が使う武器は、さっきの拳銃どころじゃないからな。間違えて君が撃たられたらどうする」
 このまま睨まれてもまずい。
 マミのひたいに手をあて、髪を後ろに撫であげる。
 苦しそうな表情は変わらない。
「マミ……」
 軍が〈転送者〉を処理し終わるのを待つしかないのか。
 あの迷彩服の男たちが軍だとしたら、もうすでにやられてしまっているだろう。援軍が向かっていなければ〈転送者〉はどこかに行ってしまうだろう。向かう先は…… まさか、このデータセンターに?
「すみません、私、化粧室に」
「あっ、ああ…… すぐもどってくるように」
 職員には女性がいないようで、誰もついてくる様子はなかった。
 そのままもう一つ上のサーバールームにあがり、サーバールームを通り過ぎ、突き当りまで廊下を進んだ。はめごろしのガラスから、外の様子を眺めた。暗く、空港まですこし距離がある上、高い木が何本かあるせいで良く見えない。
 通路を回ると、冷たい風が入ってくる階段が上へ伸びていた。
 迷わずその階段を上がって屋上へでた。
 少し遠かったが、自分が乗った馬がいるのがみえる。
 今、ここからなら、飛べる。
 私は思い切り飛び出していた。
 一気に闇の中を通りすぎて、空港へ降り立った。
 私は馬の姿を探すと、急いで駆け寄った。手綱を取ろうとすると、馬が怖がって反対を向く。
 後ろ足で蹴られてしまう。
 私も同じ方向に回りこむが、なかなか手綱をとれない。
「もう! おとなしくして」
 さっきまでは大人しかったのだから、こっちが慌てなければいいのだ。
 冷静に、自分の心を落ち着けた。
 馬も急にこちらの様子を見るようになった。
 ゆっくりと、馬を脅かさないように進む。
 手綱が取れた、と思いそのまま足を掛けて鞍にまたがると、馬は驚いたように上体を跳ね上げた。
 無理もない、と思いながらも、手綱を握って、空港を走る。
 軍が空港に馬を入れた場所を探す。
 迷彩服の男たちは空港へ、馬を通せる大きさの入口があるはずだ。
 ということは、馬もこちら側から入れたはずだ。だからどこかにこの柵の切れ目か、出入り口があるに違いない。
 ウエスト・データセンターとは逆の方向だったが、飛行場のフェンス沿いに馬を走らせる。
「あった!」
 おそらく最初はゲートのように開閉するような『扉』になっていたところを、二重にフェンスを重ねて、直進出来ないようにしてあった。こうなっていれば車は通れないだろうが、そのまま人が来たり、動物であれば、好きに出入り出来てしまうだろう。ここからは車両が入れない為、迷彩服の男たちは馬でやってきたのだ。
 私は手綱を引きながら、そこを通って空港を出た。
 道は小さいループを経て私達を運んだマイクロバスが通った道に繋がる。
 舗装された道に入ると、馬の蹄はコツコツと小気味いい音をたてた。
 そのままウエスト・データセンターにつくと、スロープを降りかけた。
 危ない!
 手綱をギュッと引いて、馬を止めた。
 高さ制限の黄色と黒の看板が目の前にある。