「そうか、だから」
 自分達がついた時、サーバーラックの納品業者が地上階にいた理由が分かった。
 高さのある車は地下駐車場へは入れないのだ。
 馬から降りて、手綱を引いて歩くことにした。
 これでどうやってマミを馬に乗せて運ぶ、とか、ちょっと考えただけでも難しかった。
 どう考えても馬車なんてないから、普通のバイクの二人乗りのようにして、馬にまたがるしかない。
 駐車場に入ると、蹄の音が更に響いた。
「マミ、大丈夫? 早く〈鳥の巣〉の外に出よう」
「君、どこに行っていた。化粧室に行くといってずっと帰ってこないから、心配したぞ」
 職員の人が駆け寄ってきた。
「マミは大丈夫ですか? 早く医者に連れて行かないと」
「き、公子」
 マミはフラフラと立ち上がる。
 私は慌てて手綱の職員に渡し、マミのところへ駆け寄る。
「まさか馬でゲートまで戻ろうという気じゃないだろうな」
「まだ空港の〈転送者〉がいなくなったという確認が出来ていないんですよね」
「そうだ。だから……」
「まだ空港から出ていない、ということでしょう? それなら道をいっきに抜けてしまった方が安全です。このままマミの治療をせずにいて、体調が悪化したらあなた達のせいですよ」
 職員は決断が出来ないようだった。
 馬に乗せて運べば私の責任になる、そこまで言おう。
「私が馬に乗せて勝手に出て行った、ということにしてください。それならいいでしょう?」
「……」
 私はもう待てなかった。
「勝手にさせてもらいます」
 職員から手綱を奪うようにとった。
 マミは私に引かれて、よろよろと馬のお腹に寄りかかった。
「マミ、馬に乗って。天井の配管に当たるかもしれないから、乗ったら上体を寝かせて」
 私はマミの足をもって、鐙(あぶみ)に足をかけさせた。具合が悪いせいで、バランス感覚がマヒしているよのか、フラフラとして馬の上に載せるだけでかなり時間がかかった。
 乗せると、手を馬の背につかせ、寝そべるようにさせた。
 手綱を引いて歩かせると、左右にブレて落ちそうになる。
 なんとかスロープをのぼり、高さ制限の看板を過ぎた。
「マミ、私も乗るから、少しだけ頑張って体を起して」
 マミがなんとか背筋をピンとさせる。
 マミを蹴飛ばさないように、内側を足を曲げてまたがった。
「これで縛(しば)るか?」
 さっきの職員がここまでロープを持ってきてくれていた。
「マミ、もっと近寄って」
 背中側にマミを載せ、腰をロープで縛った。
 肩に手をそえたようにして寄りかかるマミ。この状況で走ったら落馬してしまう。
 職員が言う。
「〈転送者〉がいたら絶対に逃げるんだ。絶対だぞ」
 私はうなずいた。
「それじゃ、行きます」
 ゆっくりと馬を歩かせた。
 マミが慣れてくれば、少し走らせてみてもいい。
 ウエスト・データセンターの敷地を出ると、マミが言った。
「公子、眠い……」
「マミ、寝たら落馬しちゃうよ、ゲートに着くまでは眠らないで。お願い」
 ただ眠いだけなら、少しスピードを上げた方がマミには良いのかもしれない。
 脅し気味に大きな声で言う。
「少しスピード上げるよ!」
「わ、分かった!」
 肩にかけていた手を、私の腰に回して、体を密着させてきた。
 いつもの妄想が始まりそうなくらい、暖かくて柔らかい身体。
 けれど、普段のような力強さはない。
「頑張って」
 馬が速歩(はやあし)を始めると、うまくタイミングを合わせられずに鞍がおしりを叩いてくる。
 マミの目は覚めるだろうが、お尻は腫れてしまうだろう。
 馬とともにゲートに向けて道を進んでいくと、空港が見えてきた。
 軍の人たちは〈転送者〉を殲滅出来ているのだろうか。
 空港建物は暗く、静かだった。ここまでは銃声は聞こえないのだろうか。
 空港の柵が開いていたあたりに差し掛かると、ゲート方向から緊急車両の音が小さく聞こえた。
 警察車両だろう。
「〈鳥の巣〉の中にも警察いるのかな」
「公子、そんなことより、お尻が痛い……」
「!」
 フラフラと藪(やぶ)から人が飛び出してきた。
 ヘルメットのライトがゆらゆらとデタラメに道を照らす。