もうだめだ……
 立ち上がってきた〈転送者〉に気付かれてしまった。
 ハサミの付いた腕を高く振り上げ、一歩一歩近づいてくる。
「諦めるな」
 まさか!?
「鬼塚刑事!」
「本当に呼ぶのが下手だな」
 刑事は〈転送者〉の足を持ち上げて、ひっくり返してしまった。
「こっちは足止めしておくから、トドメをさせ」
 手の力で、頭の亀裂を開くと、身体を入れ背中と足の力でさらに亀裂を広げた。
 ビュウビュウと、亀裂の奥から気体が抜けていく。
 ハサミのような片腕が、がっくりと地面にたたきつけられた。
「早く始末しろ、そして、こっちを手伝え」
 乱暴な声がする。
 亀裂を広げるのをやめ、一度大きく上昇して、スピードをつけて下降して裂け目に足先を引っ掛ける。
 大声を出して気合を入れると、足を踏ん張って裂け目から〈転送者〉を縦に真っ二つに切り裂く。
 バリバリと、殻が割れていく音がするとともに、もっと激しく気体が抜ける音がして、〈転送者〉の体は散り散りに砕けた。
「やった……」
 振り返ると、そこには〈転送者〉と|虎がいた(・・・・)。
「鬼塚刑事?」
 虎はハサミのある腕の根本に噛み付いていた。
 引き剥がそうと揺らすと、噛み付いたところが避けて、気体が抜けていく。
 〈転送者〉が体を振り回しすぎて、転びかけると、虎は腕を離して地面に着地した。
 着地した虎は、みるみるうちに人に変わっていった。
「倒したみたいだな。さあ、こっちも片付けちまおう」
 あの時に感じた虎のイメージはこれだったのだ。
 私が感じたように、もしかするとこちらのこともバレていたのかもしれない。
 刑事は転んだ〈転送者〉の腹の上に飛び乗った。
 〈転送者〉はハサミのある腕を振り上げる。
 自分の腹に乗った異物を振り落とそうとしている。
 私は上空から隙をみて、刑事が噛み付いていた腕の付け根に降下する。
 悲鳴のように、中の気体が漏れでて、腕がバタンと倒れた。
「とどめを!」
 刑事の方を振り向くと、既に拳で〈転送者〉の体を割っていた。
 そのまま腕力で切り開くようにそこを開けると、両足を開くように張って立った。
「さっきのように君の爪で切り裂け」
 うなずいて、飛び上がるとスピードを上げて刑事目掛けて降下する。
 足の先が刑事をかすめながら、〈転送者〉の腹の裂け目を捉えた。
 そのまま私は滑るように殻を割っていく。
 ドンという爆発的に気体が抜ける音がして、二体目の〈転送者〉破裂した。
 私は翼とともに自分の力を体の中に収めた。
 散り散りになった〈転送者〉の体が紙吹雪のように降ってくる中、刑事はゆっくりと歩いてくる。
「ありがとうございます」
 頭を下げた。
 刑事が無言なのが気になって、顔を見上げる。
「何故何も言わずにここに入った」
「……えっ」
「やる気なのは知っていた。だから俺を呼べと言った」
 刑事の言うことが理解できない。
「俺も今、かなり際どい方法でこの中に入っている。次も同じことは出来ない」
 話していることは良く理解できないが、物凄い形相で、怒っているようだった。
「ごめんなさい」
「|〈鳥の巣〉(なか)に何があるんだ?」
「それは……」
 大切な思い出、とか、友達の記憶、とか、そんな言葉で説明したところで『命を投げ出してまで取り戻さなければならないのか』と言われてしまいそうで言葉につまった。
 そうだ。それこそ、大切な思い出、なんて場合ではなかった。
「ちょっとまってください! そんなことより、マミが」
「友達も|〈鳥の巣〉(なか)に入れたのか」
「危険な目には……」
「あってないとでもいうのか」
 倒れたままのマミに駆け寄る。
 もう馬はいない。どうやって病院へ連れて言ったら良いのか。
「俺が背負ってこの先の車のところまで行く。お前も乗れ」
「はい」
 マミが背中に背負われると、鬼塚刑事は立っている私に向かって言った。
「|お前もだ(・・・・)」
「乗れって、背中に?」
「早くしろ」
 二人も背負えるのだろうか疑問に思いながらも、後ろに回って肩にしがみついた。