「お前は手で抑えないから、落ちるなよ」
 刑事の首に手を回す。
「はい」
 私が返事をすると同時に、鬼塚は走り出した。
 力いっぱいつかまっていないと、振り落とされそうな勢いだった。
 まるで二人を背負っても負荷にならないぐらいのスピードで走る。
 原付きバイクだって、この重量になれば軽快に走るとは行かないだろう。なのに、この刑事は軽々とそれをやってのける。
「刑事さん。この姿でも力が出るんですか?」
「ああ?」
「あの姿じゃなくても、力が出ますか?」
「お前もそのうちわかる」
 少なくともまだ私は翼を出さない限り、超人的な力が出ない。普通の人か、それ以下だ。刑事も体を変身することが出来るが、しなくとも力が出せるのだ。
 新交通の車両内で〈転送者〉を殴り倒したのも、この力を使ったからで、やはり、普通の肉体の者が〈転送者〉を素手で倒すことは出来ないのだ。
 空港が見えなくなってしばらくすると、道の先にハザードランプが点滅しているのが見えた。あれが乗ってきた車だろうか。
 鬼塚は立ち止まった。
「お前は降りろ、さすがに二人を背負って走っているのは見られたくない」
「はい」
 さすがの鬼塚も息が荒かった。
 こちらもしがみつくのに必死で、かなり疲れてしまっている。
 車に近づくと、運転席から男が一人近づいてきた。
 若くて、すこしおどおどした感じだった。
「鬼塚刑事、何してたんです」
「人が倒れていた。すぐ引き返して病院へ連れて行く」
「は、はい。そっちの娘(こ)は誰ですか?」
「倒れていた娘(こ)の知り合いだ。一緒に連れて行ってくれ」
「わかりました。けど、もう勝手なことしないでください」
「ああ、わかったから、早く車をだしてくれ」
 鬼塚が助手席に乗り込むと、そっちがギュッと沈む。私とマミは運転席の後ろの方へ寄ってバランスをとる。
 行きに乗ったマイクロバスと同じで、ドアがない車両だった。私はマミが振り落とされないように、体に手を回した。
「いいですか?」
 そう言って振り返る。
「はい」
 急に背もたれに押し付けられるほど加速を始める。
 男はなにか左手でレバーを操作している。
 エンジンの音がうるさい。
「何なんですか、この車」
 運転している男は必死で聞こえていないようだった。鬼塚が振り返って言う。
「昔の、ハイブリッドじゃない、ガソリンエンジンオンリーの車だよ。しかもマニュアルだ」
「?」
「マニュアル車もわからないか。こいつでギアを手動でコントロールするのさ」
 何かは分からなかったが、アクセルを踏むだけではなく、色々操作する必要があるようだ。
 こんな音の大きい車に乗るのは、学校の通学バスぐらいだった。もしかすると、学校のバスもガソリンエンジンオンリーなのかもしれない。
「〈鳥の巣〉にはガラクタばかりを送り込んでくるですよ。ドアを取っ払わなきゃいけないですからね」
「お前は運転に集中しろ」
「鬼塚刑事、運転いただいている方はどなたですか?」
「|〈鳥の巣〉(ここ)の警察だ」
「こっちは軍だけじゃないんですか?」
「軍隊は泥棒をつかまえない。交通違反と取り締まらない。ここは外国じゃないしな」
 なるほど、所轄が違うが警察は警察なのか。
 車についている無線機が呼び出しているようだった。鬼塚が車両の番号を告げた。
『発生した〈転送者〉は片付けたようだ。今、軍から連絡が入った』
 何か聞こえないような声で鬼塚が話しかける。
 ボタンを押したり、話したりする時のノイズが聞こえた後、車両の無線が言った。
『被害状況の連絡はない。また向こうで処理するんだろう』
 向こうで処理? なんのことだろう。
 刑事は無線を切った。
「今後、お前は勝手に〈鳥の巣〉に入るな」
「刑事だからってそんな勝手なこと言えるですか! 私の自由じゃないですか」
 横暴すぎる。
 私は逆上した。
「よく聞け。入るな、とは言わん。勝手に入るな、と言っているんだ。とにかくこのことは学校に連絡する」
「そんな。警察にそんなことできるわけ……」
「ここは避難区域なんだぞ。なんとでも理由はつけられる」