本来、昨晩のボランティア活動の為、今日は学校を休むつもりで申請していた。だが〈転送者〉が現れ、マミが倒れてしまった為、〈鳥の巣〉には予定の半分もいることができなかった。
 もう少し空港にいれば、記憶ももっと思い出せたに違いない。
 ご飯を食べたら、適当に部屋で時間を潰して、マミのお見舞いに行こう。
 もうあまり食事をとっている人はいなかった。今から食事だと、着替えたり支度を整える時間はない。食堂にいる連中も私以外は皆制服を着ている。
 私は食事を受け取り、食堂の端でご飯を食べていると、寮監がテーブルの向かいに立った。
「白井さんね?」
「はい」
 寮監は、エプロンの下に手をいれ、もぞもぞした後、スマフォを出して電話した。
「先生、白井さん来ました」
 何かまた一言二言いった後、そのスマフォを私に差し出した。
「はい。佐藤先生。あんたに用があるって」
 私は受け取ると、口の中のご飯を慌てて飲み込んだ。
「はい、白井です」
『体調に問題なければ学校に来い』
「はい。ただ、まだ着替えてないので」
『授業じゃないから、一時限目に遅れてもかまわん。警察が来る十時までに着けばいい』
「けっ……」
 人が少なく、自分の声が響きそうだったのに、躊躇した。
「(警察が来るんですか)」
 寮監が変な顔でこっちを見ている。
『木更津とお前の仕事について、ボランティア受け入れ先からも連絡があったからな』
「え、だって、昨日は……」
『いいから十時だ。必ず学校に来い』
「はい」
 私はスマフォを寮監に渡した。
 何か寮監と先生が話していたが、それも終わり通話を切った。
「白井さん…… あっ、食べてていいのよ。先生がね、学校のシャトルバスで来いって」
「何故です? いつもの通り歩いていっちゃだめないんですか?」
「必ずシャトルバスで来いって。運転手のyyyさんにも言っとくから」
 そう言ってエプロンで拭くと、スマフォをしまった。
 なんだろう。私はバスで行くことの意味が分からなかった。
 私に言えばいいことを、寮監に指示するのも解せない。
 何かあるのだろうか。
 とにかく、学校に行かなければならなくなった。昨日のような事件があれば、もちろんしかたないことではあるが、こう非日常的なことばかりが続くと、ご飯を食べに食堂に来ずに、のんびりと寝ていればよかったと思った。
 いや、そんなことをしたって寮監が部屋に呼びに来ただけか……
 何かこれからのことを考えて食欲が失せていた。
 一通りの皿と鉢に手をつけたが、殆どは残してトレイを片付けた。
 寮監は「バスで行くんだよ」と念を押してきた。
 私はうなずいて食堂を出た。

 制服に着替えて、部屋の窓から外を眺めていると大きなエンジン音が聞こえてきた。
 寮の前の車回しにおんぼろのマイクロバスが入ってきて、止まり、中から足を引きずったおじさんが出てきた。
 時計をみたがまだ十分歩いていける時間だった。バスに乗ったら学校で三十分も四十分も待たされることになる。
 スマフォに入れていたスクールバスの時刻表を眺め、もう一本後のものがあったので、そっちで行こうと思った。
「こら! 白井、白井公子。他の生徒が遅れるから早く出てこい」
 窓から離れようと思った瞬間、おじさんがそうわめき始めた。
 寮監も出てきて何か大声でやりあっている。
「白井公子、早くバスに乗れ!」
 私は諦めて正面口に降りた。
 靴を履き替えている時に館内放送が入った。
『白井公子、白井公子。正面口のバスに乗車のこと。繰り返す正面口のバスに乗車のこと』
 寮内のスピーカーが一斉にそう言った。
 顔が熱くなるのを感じた。
 慌てておじさんに駆け寄ると、自分が白井であることを告げた。
「出発するぞ、早くのれ」
 私の後からおじさんが足をひきずりながら乗り込むと、扉がしまった。
「出発!」
 ガラガラという音が更に大きくなると、ガツンと音がして車が進み始めた。
 ガラガラとずっとエンジンの音がしている。
「大丈夫だったのか?」
 反対側の窓の方に座っていた男が、そう言った。この前の転校生だ。名前は…… えっと……
「佐津間(さつま)だよ」
 何故こっちの心理が読めたのか。
 ちょっと怖くなった。