まあ、しかし、だ。
 人生の中で、初めて男にモテたのかもしれない。そういう意味では嬉しいと思ったし、認められたという気持ちも、少しあった。
 突然、ガクン、とバスのスピードが落ちた。
 バス内に緊張が走った。
「〈転送者〉か?」
「もし〈転送者〉だったら白井のせいだぞ」
「なんであたしのせいなの」
 私も立ち上がって前方になにかあるのか確認した。
「何もないみたいだけど」
「うん」
 結局、運転手のおじいさんからも説明がなく、スピードダウンの原因は分からないまま、学校についた。
 バスを降りると、車輪の横あたりから煙が出ていた。ドライバーのおじさんは慌てて消火器を使った。
「生徒さんは素早くバスから離れて」
 あのスピードダウンはこのエンジンの不調のせいだったのだろう。エンジンの不調の原因が〈転送者〉だったのかも知れないが。
 校舎の外に担任の佐藤が出てきて、木場田達に早く教室に入るように指示した。
 他の学年や、別のクラスの生徒にも早く行くように言って背中を押していた。
 私だけが取り残された。
「白井はこっちだ」
 校舎に入り、廊下を職員室の方向に歩いていた。
 外に止まっているマイクロバスの煙はおさまったようだったが、エンジンが壊れたのか、おじいさんがパネルを開けて中を見ていた。
「とりあえず無事で良かった」
「すみませんでした」
 応接室という札が出ている部屋の前で立ち止まり、扉をノックするとドアを開いた。
「白井を連れてきました」
 校長がドアの方に寄ってきて、私を中に入れると外へでた。
「警察の方でお話しがあるということだから。もし何か困ったことがあったら校長室に電話して、すぐ私を呼びなさい」
「大丈夫ですよ」
 奥から鬼塚刑事の声がした。
 担任の佐藤と校長は刑事に頭を下げて出ていった。
「何の話でしょうか」
「まあ、少し待て」
「……」
 鬼塚はソファーを指さし、座れと指示した。
 本人は立ち上がって、ドアノブを回した。
 扉を開けて、廊下を見回しすと、またドアを閉めて戻ってきた。
「応接室、っていうのは録画とか録音とか、モニターされていることが多くてな」
「?」
 鬼塚はソファーに座った。
「ここじゃないほうがいい。ちょっと時間をくれ」
「……はい。今日はこの為に学校に呼ばれたんで」
「そうだった」
 私たちは応接室を出ると、駐車場に停めてある車のところへ向かった。
「じいさんの車、やられたみたいだな」
「なににやられたんですか? あれに乗ってたんですど、別に何も説明なかったですよ」
「俺は、学校がモニターしている画像を見ていたんだが、っちに来るまでに一体〈転送者〉が出ていたよ。あの運転手のじいさん、大したもんだ」
 あのスピードが落ちたのはエンジントラブルじゃなくて〈転送者〉のせいだったのか。
「本当ですか?」
「ああ、軍が出動しているから大丈夫だ」
「そんな騒ぎには思えなかったけど」
 車が通り過ぎたところに軍がきたなら、音なり車両なり、なにかわかるようなことがあってもよさそうだった。しかしバスはスピードが落ちたもの、すんなり学校にきている。
 靴を履き替えて駐車場の車に乗り込む。
「なぜこの中で話すんですか?」
「学校で話して盗聴されていたら危険だからだ」
「学校が? なんで?」
「学校は単に渉外用に応接室など一定のところは録画しているし、一部は音声の録音もしている。それを後で聞き返したか、モニタしてたヤツがいるってことさ」
 私を狙っているとか、そういうことなのだろうか。ただの高校生に何の価値があるというのか。
「だから、なんのために」
「知らん。俺もそれを知りたい。お前に何の価値があるのか、あるいはお前を狙う理由は何か」
 いや、だから全く思い当たることがないからそう言っているのに……
「……わかりません」
「そうだろうな」
 刑事は頭の後ろに腕を組んだ。
 そして大きなあくびをする。