「本当に私を狙っているですか?」
「それは間違いないな。昨晩のサーバーラックの件だが、届けて出ていた担当者と、当日の担当者が代わっていて、ゲートでもめていたそうだ。お前の申請があったのを知って細工したフシがある。だから、今、申請書にアクセスできるやつをあたってる」
「えっ? それ本当ですか?」
「中にはいる業者がサーバーの蓋をもってくるわけがない。持ってきたとしても、取り付けない。何年前からずっとそうして来ているんだからな。昨日のデーターセンターは明らかに故意に〈転送者〉を呼び込んでいる」
 刑事の表情は、興味なさそうな感じだった。
 ずっと車の正面方向を見ている。
「君たちが|〈鳥の巣〉(あそこ)入るのが分かって、狙ったとしか思えない」
「まさか!」
「心当たりでもあるのか?」
「いえ、そういう意味ではないです。びっくりしたというか」
 私を狙ったのか、マミなのか。
 私だけを狙ったと思えるのは空港、さっきのマイクロバスの二回。
 それ以外は私を狙ったのか、マミを狙ったものなのか全くわからない。空港やさっきのバスの件は単純に扉の処理抜け、偶然と考えれば、狙って発生させたと思われるサーバールームの方、マミが狙われているとも思える。
「あと、カチューシャの話しだ」
「ああ、調べてもらえました?」
「誰に渡している? 誰も預かっていないということだ」
「砂倉(さくら)署の山咲さんという方です」
「……電話してみる」
 スマフォを取り出すと、話し始めた。
「いや、ちょっと教えてほしいんだが。ヤマサキってのは…… ああ、なるほど…… ああ…… 異動? は? 分からないってなんだそりゃ」
 スマフォ側の音が小さくて、何か、よく分からないやりとりがつづく。
「いたのか…… ああ、そうだ、その娘(こ)だ…… ああ…… で、カチューシャ預かってないか? 待ってる…… そうだ。至急」
 スマフォを切った。
「なんだったんですか?」
「確かにいるそうだ。今も砂倉(さくら)署かどうかが怪しいがな」
「そんな人が署をウロウロして構わないんですか?」
「県外に異動したならともかく、県内だからな。隣の署にいても不思議はない」
「カチューシャは? あれ、かなり重要な証拠物じゃないかと」
 鬼塚は自身のあごに手をかける。
「操られた、ってヤツだよな」
 目だけがこっちをみる。
「その話、信用していいのか?」
「渡したことですか、操られたことですか?」
「人を操る、と言われて信じてくれる方が少ないと思うが」
 私は膝を叩いた。
「マミが、演じていたとでも言うんですか。あれは絶対に操られていたんです」
 確かにどうやって、の部分については全く分からなかった。そんなことができたら、科学の雑誌で騒ぎになるだけでなく、一般的なニュースになっているだろう。
「……けど。〈転送者〉の転送技術だって誰もしらないけれど、実際に動作しているのは目の当たりにしています。知らない技術があるのかも!」
 そうだ。
 〈転送者〉の転送、動力、何を目的にしているのか。そんなことだって全く分かっていない。
 もしかしたら、カチューシャはそっち側の技術なのかもしれない。
「わかった」
 私のヒステリックな声に反応して、落ち着けといわんばかりのジェスチャーをしながら、鬼塚はそう言った。
「そういう意味では、調べても人を操れるもののかは分からないだろう。別の手がかりにはなるかもしれないが」
「別の手がかりってどういうことですか?」
「そんな能力があるなら、カチューシャは回収したいだろう。取り戻そうとしてくるってことさ」
 車のエンジンをかけた。
「そっちは任せてくれ」
「お願いします」
「狙われている、という意識をもって行動してくれ。何故狙われているか分からないと、守りようがないということはあるが。少なくとも〈鳥の巣〉に入る時は連絡をするんだ。わかったな」
 スマフォの番号を教えられ、私が自分のスマフォでかけてみる。刑事の電話に着信し、通話を切る。
「よし。お前が学校帰る時は電話しろ。車で送る」
「はい」
 学校と寮では襲われたことはない。
 通学路と〈鳥の巣〉の中だけだ。
 だとすれば、刑事が車で送ることはまとを得ているようだ。
「それじゃ、今日は真面目に授業を受けるんだな。その間に俺は砂倉署に行ってみる」
「わかりました」
 車を下りて、頭を下げる。