「まぁ、そうかも知れないけど」
「だって電子申請だから、これ絶対学校内で撮り直しになるよね?」
「?」
 マミも私も神代さんの言う意味が分からなかった。
「申請時に先生がチェックして撮り直しするはずだから、絶対髪にアクセサリ出来ないはずなの。キミコだって、ほら、申請の写真じゃ髪おろしてるじゃん」
「うん、学校に来た時、先生が外せって言って」
「申請は事前のはずだし、必ずチェックがあるから、普通こんな写真にならないよ」
「取り直す予定だけど、まだ直してないだけじゃん?」
 マミがそう言う。
 私もそう考えるのが妥当な気がする。
「そんなに慌てて転校させる必要があった、とかギリギリまで本人写真が来なかった、と考えるべきじゃない?」
「確かにね。キミコも面接あったでしょ?」
「私もめっちゃ長い面接あった。神代さんは?」
「当然。私はその時に書類も写真も撮り直したよ。だから覚えてる。こんな写真はありえない」
 その場で転入申請をしたとか、そんな感じにあわてて転校してきたということか。もしくは書類のチェックも、面接も受けないまま学校に入ってきたとか。
 そもそも、この赤黒のカチューシャはマミがおかしくなった時のものと全く一緒だ。いや、写真がないから本当に比べられないが、同じものに違いない。それをしてきている、ということは、私達に害をなす者かその仲間ということだ。
 害はなさないかもしれない。何か探りに来ているのかもしれない。けれど、私の何が知りたい?
「キミコ、このカチューシャ……」
「そうなの」
 私はうなずいた。
「何のこと?」
 ここで話さない方がいい。
「何でもない」
「イヤらしい」
「いやらしくないでしょ? 何がいやらしいのよ」
 看護師が入ってきて退院の手続きが済んだことを伝えた。
 私と神代さんはカーテンを閉め、病室を出て待っていると、マミが制服に着替えて出てきた。
「とにかく、寮にもどったらミハルには注意しないとダメだね」
「訳ありの娘(こ)ってだけでしょ」
「……ま、そういうことだけど」
 私達は新交通で帰った。
 マミはまだ少し警戒していたようだったけど、神代さんと木場田、鶴田談義で盛り上がって、途中からは完全に〈転送者〉のことは頭にないようだった。
 私は楽しそうに話すマミの横顔を見ているだけで心地よかった。本当なら、自分が何か話して、それでマミを喜ばせれば、もっと良かったのだけれど。
 寮に帰ると寮監が出てきた。
「白井さん、木更津さん、ちょっとこっちに」
「はい、なんでしょうか?」
 私達は部屋に戻れないまま、食堂の端にあるソファーに座らされた。
「あなた達、どっちか部屋を動いてもらっていい?」
「……」
 私は全く予想もしない内容で、言葉が返せなかった。マミが言った。
「えっ、どうしてですか? まだ全部屋二人部屋って状態でもないですよね」
「そうね。だけど、どうしても変えて欲しいんだけど」
「あの、マミとやっと友達になれたんです。また部屋が変わっちゃうと」
 そうだ。これから、これからもっと色んな思い出を残したいところなのに。
「そうね。だけど、変えて欲しいって」
「それ誰ですか」
 まさか。ミハル?
「……」
 寮監は何も言わなかった。
 私とマミが必死に話していると、寮監もあまりに強引すぎたと思ったのか、少し態度を変えてきた。
「分かりました。部屋を変えるのはなしにしましょう。その代わり、この提案は受け入れてください」
 そう言って、寮監が二人が別れ別れにならない方法を提案した。私達はそれを拒否出来ない、と寮監が強く言ってきた。
 私達はそれを受け入れた。
 寮監がそそくさと立ち上がると、スマフォでとこかに連絡していた。
 寮監は、電話の先の誰かに、一所懸命に謝っているようだった。
 私は立ち上がった。
「なんで!? ミハルって、あの娘(こ)いったい何者なの?」
 マミは意外に冷静だった。
「まぁまぁ。それよりベッドどうする? どっちか二段ベッドにするって言ってたでしょ」
「ベッドぐらい先住の私達が好きにする権利あるでしょ? マミのベッドの側を二段にして、二人で使うことにしようよ」
「そうだね。それがいいよね」