大きな変化だった。
 マミは続けた。
「ミハルは、この部屋でみんなと仲良くしたい?」
 うなずいた。
「じゃあ、なんでワザワザキミコと一緒の部屋にしたかったの?」
「……」
 何もリアクションしない。
 マミが首をひねる。
「ミハル、そのことは言葉で話せるの?」
「……」
 ミハルは首を振った。
「何で?」
 私は瞬間的に割り込んでいた。
 マミに肩を叩かれた。
 マミが口を開く。
「ミハル、それってもしかして、誰かに口止めされているの?」
「……」
 かろうじて首を縦にふったか、という感じだった。どっちとも取れるようなリアクションだ。
「ミハル、そのカチューシャ可愛いね」
 何も表情を変えない。
「ちょっとつけさせて」
 マミが手を伸ばすと、払うというより、拳法か何かのようにバッチリと叩き落とした。
「痛い……」
「ミハル、あんた何するの!」
 私は思わずミハルの胸ぐらを掴んでいた。
 ミハルの目が涙で潤んでいた。
 私はそれを見た瞬間、手を離した。
「キミコ、ちょっと私に任せて」
 叩かれた手を抑えながら、マミが言った。
「今のはミハルの意思でやったの?」
 ゆっくりだが、首を振った。
「言葉で説明出来る?」
 ゆっくりだが、同じように首を振った。
 そうしたと思うと、ミハルは自身の首を、自分の手で絞め始めた。
「く…… 苦しい……」
 何故自分で自分の首を絞められるのか、私とマミは意味が分からずしばらく様子を見ていた。
「キミコ、これ、おかしいよね」
「なんだろう、ヤバイ感じ」
 二人で急いでミハルの腕を引っ張り、自身の首を締める行為をやめさせようとした。
 ミハルはそれに抵抗し、暴れた。
 腕を引っ張っている内に、ミハルは床に倒れてしまった。何分かの格闘の後、ようやく自身の首を絞めなくなった。
 ミハルは目を見開いて天井を見つめている。
「ミハル大丈夫?」
 マミがミハルの呼吸を確認して、言った。
「キミコ、ベッドに運ぶの手伝って」
 ミハルには私達の声が届かないようだった。
 ベッドに移しても、同じように天井を見つめるだけで、私達の問いかけには反応しない。
「どうしよう、マミ。寮監呼ぶ?」
 マミはそれに答えず、ミハルのカチューシャに手を伸ばした。
 バチン、と再び大きな音がして、マミは腕を弾かれた。
「なんだろう、このカチューシャ」
「……」
「カチューシャが抵抗しているっていうか」
 マミをコントロールしたものと同じものではないか、そう言いかけてやめた。
 マミもそれは感じ取っている。
 言ってもいいが、それはコントロールされたという気持ち悪さを思い出させるだけだ。
 それより、自分の首を絞めないように、何か対策しておかないと、ミハルが殺されてしまうのではないか、と考えた。
「何かミハルの手を縛って置かないと」
「私も思った」
 マミはそう言うとバスタオルを持ってきた。
「布団の上に手を出して、両方の手をバスタオルで縛っておこう」
 私はその状態で首を絞められないか、自分でシミュレーションしてみた。手首がくっついているような状況では、よっぽど指を上手に使わないと首を絞めて殺すことは出来ない。
 しかし。
「他のやり方は考えなくていい?」
「えっ…… やっぱりそうくる?」
「どうしよう、誰か起きて見張ってないとだめかな?」
「そこまで? だって今、ねてるじゃない」
 それはそうなのだが。