放課後の教室には、真琴と幼馴染の薫の二人きりしかいなかった。
「ごめん」
 というと、真琴は机に突っ伏して寝てしまった。それを確認するや、薫はスマフォを取り出し、ためらいもなく真琴とのツーショットを撮り始めた。
「そうね、ちょっとここがヒラっとしていた方が感じが出るかしら」
 誰に言う訳でもなく、そう言いながら、真琴のスカートの裾を弄ってみたりしている。
 とにかく、薫は真琴が好きだった。
 何度も何度もこうやって写真を撮ったり、いつも一緒に登下校したりすることがたまらない喜びだった。こんな公立の高校に通っているのも、真琴といる喜びのためであった。
 そう、今なら。
 真琴が頭痛でこうやって寝てしまう度に実行しようと思っていることを、今日こそやれるのではないか、と薫は思った。
「ボクがやらないと」
 真琴はボソっとそう言った。
「えっ!」
 びっくりしたように薫は仰け反った。
 よほど強く思い込んでいるのだろう、と薫は思った。
「…侵略されてしまう」
 続けて真琴が言った。
「そうね。以前もそんな話だった」
 薫は以前、真琴が『ヒカリ』という【異物】から聞いたという、精神侵略の話を思いだした。
 そうなんだ。真琴は苦しんでいる。理解してくれる人はいない。だって夢で見た、と言った瞬間、誰も信用しないだろう。自分だって、今も100%信じているとは言えない。
「真琴がこんな状態なのに」
 それを無視しているように体が、真琴との接触を求めている。薫は、やさしく真琴の髪を撫で始めた。
「私はなにをしているのかしら」
 手から伝わる髪の感触と、時より乱れる寝息を聞いていると、どうにかなりそうになる。
 薫はそんな場合じゃないのだ、本当に世界の危機なんだ、と言い聞かせる。しかし何時もそうであるように、徐々に真琴に体を寄せていくのだった。
「真琴…」
 そう言うと薫は屈み、真琴の体に、とくに露出している太ももに、唇を寄せていった。
「いけない!」
 薫はそう言って自分を戒めた。
「…ゴメン」
 薫は跳ねるように立ち上がった。
 真琴が起きたのである。
「ど、どう?どう?どうだったの?」
 薫は激しく問い詰めた。急に立ち上がったので目まいがした。
「やっぱり、品川さんは『エントーシアン』だったわ」
「敵、という事なのね」
 薫は『バン!』と音がでる勢いで机に手をついた。立ちくらみが酷かったせいなのだが。
「以前からヒカリが言っていたことが起きたのよ」
 真琴は、立ち上がり教室を飛び出した。
 薫は、今回もバレなかったと確信し、気持ちは慌てているのだが、よろよろと真琴を追った。
「待って!」
 真琴は振り返ると、薫に手を差し伸べた。
「行こう」
 薫は手を引かれながら、保健室の方へ行った。

 二人が保健室についた時には、扉に不在と書かれた札と鍵が掛かっていた。
「先生いないのかな…」
 真琴は何度か扉を開けようとするが、やはり鍵が掛かっているようだ。
 すると後ろから声がした。保健の先生だった。
「どうしたの真琴。あんたも具合悪いの?」
 新野を名前で呼ぶのは、去年からずっと保健室にお世話になっていて、顔見知りだった為だ。
「いえ。今日はそんなんじゃないんです。品川さんがどうしてるか心配になって」
「品川さんなら新田さんのお母さんの車に乗せていってもらったから大丈夫。」
「ようすはどうでしたか?」
「ちょっと横になったせいか、随分よくなってたみたい。明日は医者に行きなさい、とは言ってあるけど」
「そうですか…」
「品川さんに何か伝えることでも?」
 真琴の態度から保健の先生が問いかけをしようとしたが、薫がさえぎった。
「いえいえ。別にそれが分かれば安心です。ありがとうございました。それでは私達も失礼いたします」
「失礼します」
「そう。それなら良いけど。新野さん、ちょっと具合悪そうだから、気を付けて帰ってね。さようなら」
 来た時とは逆に薫が真琴の手を引いて保健室を後にした。