サッと身体を洗い流し、湯船に浸かって、二人と反対の方を見ることにした。妄想禁止。これがこれからもずっと続くのだろうか。
「キミコ、本当にどうしたの?」
 私は答えるときも振り向かなかった。
「本当になんでもないの」
 こうやってマミが体を洗うのと、湯船につかる時間をずらせるだろうか。
 マミと一緒にいて、妄想無しはありえないというか、避けられないものだった。
「どうしたの、ミハル?」
「ここではどうしたらいいの?」
「お風呂だよ」
「オフロ……」
「本当に知らないの?」
「……」
 なんだろう、ミハルにはまともに記憶すらないんだろうか。
 それとも、あのカチューシャのせいだろうか。
「体を洗って、湯船で体を温めるんだよ? 思い出した?」
「……」
 気になって、後ろを振り返りたくなる。
「コレ……」
「体を洗うのはこっち。これは髪を洗うの」
 大体の女子は個人持ちのを使うが、寮にもボディーソープとシャンプー、コンディショナーはおいてある。何度も入る運動部系の部活の人は、寮のもので済ませてしまうことも多いと聞く。あくまで個人の意識の違いによるらしいが。
「ほら、私の洗ってるのをみて真似すればいいでしょ?」
 いや、いくらなんでも幼稚園のお子ちゃまじゃないのだ、そんな言い方はないだろう、と私は思った。
「ぃやん。ちょっと、ミハル。私の体を洗うんじゃなくて、自分の体を……」
 えっ、何。
 最初の『ぃやん』は何だ。
 何が起こっている。
 私は妄想を止めろ、という理性の合間をぬってマミの表情や、ミハルが触ったマミの体を想像していた。
「あっ…… ダメ、ダメ、ミハル、やめて。それに私そんなところ洗ってみせてないでしょ」
 顔が半分ぐらい後ろを向きかけている。
 ほとんど想像しているのと同じような、女子同士の体の洗いっこ動画が脳内再生されていた。ヤバイ、これをミハルに読み取られると……
「マミ、体洗ったげる」
 ミハルが私の思考を読み取り始めた。
 もうヤケだ。振り向いてじっくり見てしまおう。
 自分の手を下さずにマミにエロいことをするチャンスと考えよう。
 いや、ダメだ。振り向いてはいけない。変な妄想は止めなければ。
「洗ってもらわなくて大丈夫だから」
 このやりとりを続けて、マミが怒ったらどうしよう。
 逆にマミがミハルを受け入れたらどうしよう。
 どっちも私に良いことはない。やっぱり止めに入った方がよいだろうか。
「オッパイおっきい」
「何言うのよ急に」
 マミの顔が目に浮かぶ。少し頬が赤くなっているに違いない。
「照れなくていいよ。綺麗な胸がうらやましい」
「ミハル?あなたミハルなの?」
 その通り。ミハルの言葉ではなく、私の思ったセリフをそのまま言ったにすぎない。
「触ってもいい?」
「あっ……」
 その言葉を聞いた瞬間、私のなかで何かが切れた。
 私は後ろを振り返り、ミハルとマミが何をやっているのかを確認した。
「……キミコ、違うの。はっ……ぅ……」
 ミハルはマミの後ろに回り込み、下から手を入れてマミの乳房を揉んでいた。
「違わないじゃん。感じてるじゃん」
 自分で言っていて変な気分になる。
 言葉責めというか、なんというか……
「違うよ、ミハルがふざけて……んっ……」
 私の妄想は、これを止めさせることが出来なかった。
 現実の私はこの二人の行為を止めさせなければならない。
 どうしたら良いのか、さっぱり想像がつかなかった。
 現実の自分が、正しくこの二人に対して注意できるか。
 だって本当はもっとやって、と思っているのだ。
「不潔よ。女性同士で」
 心と裏腹の言葉が出てしまう。
「……違うよ、誤解だって。ミハルが勝手に。あっ、ミハル、もう、いい加減にやめなさい」
 マミはミハルの腕を振り払った。
 すると、ミハルはマミの背中に胸を押し付けながら、上下に動いた。
「マミ、気持ちいい?」