いやだったら、逃げることは十分に出来る状態なのだ。だとすれば、マミも触られたい、と思っているに違いない。
 触りながら、私たちはマミを壁に押し付けた。
「あ、ミハル、何するの?」
 私の手を抑えていたミハルの手は、私の頭を押さえつけ始めた。
 頭を押し付ける先は、大体予想がついていた。
「ミハル、やめて……」
 心ではやめるな、と思っていた。
 目と鼻の先に、マミの大きな胸が迫っていた。
「そろそろお風呂おしまいね」
 寮監の声が聞こえた。
 私は押されたフリをしてマミの胸に顔を埋めた。
「すみません! もう少しかかります」
 胸から振動でその声を聞いた。
 寮監は少ししてからまた来るから、と行って脱衣所から出ていった。
「キミコ。いつまでそうしているの?」
 まだ顔を胸に当てていた。
 もう少しこのままだったら、舌を這わすところだった。
「ご、ゴメン」
 私達は無言で体を洗い始めた。
 気になって見ていると、ミハルはカチューシャをしたまま髪にシャンプーし、シャワーで洗い流していた。
 抑えられた髪が顔の前に下がってきて、カチューシャを外して着け直すか、と思ったのに、そのまま髪を後ろに撫で付けただけで、カチューシャの下に髪が収まった。
 カチューシャは実体のない幻影、とかであれば髪が貫通することの説明はつく。
 しかし私もマミも見えていて、さっき実際に触っていた。
 さっと湯船で温まって、お風呂からあがってもずっとそのことを考えていた。
「キミコ、どうしたの?」
 私は少しミハルと距離をとってからマミに耳打ちした。
「なんだろう。私達の知らない技術でできているのかな」
「コピー機が紙の表裏に印刷できるような、そんな感じの?」
 ミハルが足を止めた。
「ハハ…… アハハハ」
 マミが突然笑い出した。
「キミコ、なんで例えがそれなの? なんかコピー機の秘密の技術かなんかを知ってるの?」
 ミハルがきょとんとした目で私達をみている。
「そんなにおかしい? とにかく、私の一番不思議な機械ってコピー機なのよ。紙が行ったり来たりしている間に絵でも文字でも何でもその通り印刷して」
 笑い声が止まらない。
 マミのツボに入ってしまったようだ。
「キミコ、もうやめて…… お腹いたい」
 私には何がおかしいのかわからない。
 けれどマミが笑顔になってくれて、少し緊張がとけた。いつもの日常のように気分が落ち着いてきた。
 三人で部屋までもどると、マミはタブレットでネットを見始めた。
 私は急に疲れを感じたので、ベッドで横になった。昨日とは違って、天井は見えず、上の段のベッドが見える。
 ミハルはバッグに明日の授業の準備をすると、私と同じように横になった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
 私とマミが声をかけると、ベッドからこちらをチラッとみて、小さくうなずいた。
 少し様子が変わった、ような気がする。
 ミハルはそのまま目を伏せて寝てしまったようだ。私はそれをみていて、なんとなく、ミハルの中にミハル自身が戻ってきたような気がした。
「マミ、私もねちゃうね。おやすみ」
「うん。分かった。私もうすこしネット見てるから。おやすみ」
 目を閉じて、ミハルのこと、明日のことを少し考えたあたりで眠ってしまった。

 次の朝、寮の食堂に行く途中、玄関を通り過ぎるところで、皆が何か立ち止まり、文句を言っていた。何かあるのか見てみると、張り紙がしてあった。
「徒歩、自転車の通学を禁ず。全員バス利用のこと…… だって」
 誰かが読み上げていた。
「学校休みにすればいいのに」
 人越しにその張り紙を見ると、読み上げられた通りのことが書いてあった。
「……だって。マミ、どうしよう」
「どうしようもないんだよ。警察が封鎖してるからね」
 後ろから寮監がそう言った。
 マミは聞き返す。
「また何かあったんですか?」
「知らないよ。全国ニュースには何も書いていない。百葉のニュースにも書いてないけど。警察から学校に直接、そういう通知が来ているから、間違いないよ」
「封鎖しているのに、バスは通れるんですか?」
「そういうことみたい。細かい話はこっちも知らないんだよ。とにかくバスで行って」
 ミハルはまたいつもの無言で、無表情な感じに戻っていた。私達と一緒に立ち止まったり、食堂に行ったりはするのだが、会話には加わらない。