私達は朝食をとる為に食堂に移動した。
 ほぼ、食事を終えたあたりでバスの話になった。
「ま、バスで行くしかないならしかたないよね」
「今までみたいに歩いて行きたいよ」
「けど、この前みたいに〈転送者〉が出たら、ということなんじゃない」
「でも、〈転送者〉がでた翌日はこんなことにならなくて、今頃、警察が出てくるなんて」
 警察が動いたということは、何か事情が変わったに違いない。もしかすると鬼塚さんなら……
「私、後で聞いてみる」
「ああ、あの大きな刑事さん?」
「そうそう、鬼塚刑事ね。何かあったら連絡していいって言ってたから」
「……」
 ミハルが急に食事のトレイを持って立ち上がった。
「どうしたのミハル?」
 私達も慌ててトレイを持って追いかけた。
「どうしてミハルに振り回されなきゃならないのかな」
 怒ったような顔で訴えかける。
「マミ…… ミハルの様子が変なんだから、しかたないじゃん」
「こっちの言うことに従ってくれる内はまだいいけど、勝手に動き回れるのは困る」
「そうだね」
「私、言ってくる」
「あ、ちょっとまってよ、マミ」
 マミはあっという間に食器を片付けて、ミハルを追いかけた。
 私も急いで追いかけようと思ったが、追いつきそうにはないので、鬼塚刑事に電話をした。
『ただいま留守にしております。メッセージの……』
「留守電? いつでも俺を呼べ、みたいなこと言ってたくせに」
 私はスマフォをしまって、部屋に戻った。
 部屋を開けると、ミハルが棒立ちになってこちらを睨んでいた。
「マミ!」
 マミが床に倒れている。
 慌ててマミを呼ぶ。
 息はある。気を失った? のだろうか。まるで寝ているようだった。
「マミをどうしたの?」
「ウルサイから寝てもらった」
「?」
 ミハルの声ではない。
 いや、ミハルの声なのだが、ミハルが言っているものではない、と感じた。
「誰?」
「我々は〈扉〉の支配者だ」
「……」
 ミハルの目つきが尋常でない。
 赤黒いラインの入ったカチューシャが、光っているように見える。
「白井公子(しろいきみこ)。お前が五年前の出来事を知りたがっているのは知っている」
 何故、今、いきなり、そんなことを……
「我々はお前の力を知りたい」
「力?」
「お前が勝てば、知りたがっている五年前の空港の映像を渡そう」
 私はミハルが攻撃を仕掛けてくるかと身構えた。
「今夜、一人で空港にこい。お前が勝った先には映像を入れたメモリを置いておく。11時にスタートだ。お前が来なければそのまま〈転送者〉が現れ、そのメモリを壊すだろう」
 ミハルの携帯のバイブレーターがブブブ、と音をたてた。
「私が知らせなくても、軍隊が動くわ」
「そんな事は我々には関係ない。お前のクリア条件が厳しくなるだけだ」
 クリアですって? これはゲーム? ゲームを仕掛けようとしているの?
 ミハルが力尽きたかのように、膝をついた。
「ミハル!」
 私は倒れかかるミハルを抱きとめた。
 厳しかった表情が、ぼんやりとした目に変わり、焦点が定まらないようだった。
「ミハル、ミハル? ……ミハル!」
 何度か呼びかけると、ミハルは大きく呼吸をし、正気をとりもどしたようだった。
 もうカチューシャの発する光はなかった。
「……」
「ミハル、大丈夫? 何か様子が変だったけど」
「……」
「〈扉〉の支配者って言ってた」
「とびらのしはいしゃ」
 ミハルの瞳の奥でかすかに反応があった。
「わからない。思い出せない」
 ミハルは頭を抱えた。
 〈扉〉の支配者、これが何か手がかりになるかも知れない。
「|公子(きみこ)、私……」