「佐津間が格好いいかどうかなんて知らん」
 私は笑ってしまった。
「佐津間。友達にも言えないことがあるの。あと、女の子にしか解決できないこともね」
 いや、今回の件は、女の子、というより〈転送者〉を倒す力を持っている人にしか解決出来ない。話してもどうにもならないし、巻き込んでしまったら大変なことになる。
「もしかしてそういう話だったのか?」
「……いや、ま、そういうことにしといて」
「佐津間くん、そういう追求したらセクハラになるよ」
 マミはそう言った。
 私はそれ以上のことは考えることをやめた。
 学校では学校のことを考えていないと、周りに気取られてしまう。目の前のことを精一杯やっていくしかない。

 放課後、帰りのバスから、〈鳥の巣〉の壁を見ていた。一定間隔で壁の上に監視カメラが見える。映ってしまったら、きっと軍隊が出てくる。どうやったらこの〈鳥の巣〉の監視カメラを避けて、空港へ侵入できるだろう。
「ねぇ、何みてるの?」
 マミが外ばかり見ている私をつついてそう言った。
「ああ、〈鳥の巣〉の監視カメラを見てたの。あれは何を撮ってるのかなって」
「私知っているよ」
「えっ、何を撮ってるの?」
「ものすごい数の監視カメラがあるでしょ。あれ、記録量が大量になるから、人の姿を認識して、顔だけを記録しているみたい。下を向いているヤツは、車を認識して、ナンバープレートを記録するの」
「へぇ、画像認識するんだ」
「まあ、完璧ではないみたいだけど」
 もしかしたら、その認識の隙をつけば、私が通過しても警告が出ない可能性がある。
 何らかの方法で人と思わせないようにすればいいのだ。顔以外はとても人と思えないだろうから、変身前に人と認識されなければ、きっとなんとかなりそうだ。
「そうだよね。なかなか人を認識するのって難しいよね」
「けど、何でカメラのことなんて気にしてんの?」
「いや、私達ってあれでいつも監視されてるのかなって」
「……」
 マミは何故かそれ以上話しをしなかった。
 寮の部屋に戻ると私は寮監にあるものを借りた。
 私達の部屋の、お風呂の時間がくると、私は二人に言った。
「今日私はお風呂やめとく」
「えっ、キミコ、どうして?」
「ちょっとやることがあるの」
「今やっとけば良かったのに」
「二人がいると、ちょっとやりにくいから、いなくなるの待ってたの」
 ミハルは相変わらず無言だった。
 マミは少し暗い表情になった。
「何か隠しているでしょ」
「うん。隠しているよ。だからお風呂入ってきてよ。二人がいたらできないんだ」
「ううん、違うの。そういう隠している、じゃないよね…… けど。うん。分かった」
「マミ…… ありがとう」
 マミは何かを感じ取っていたようだった。
 私が近くに行くと、マミはそのまま抱きしめてくれた。
「気をつけて」
「どこかに行くわけじゃないよ」
「うん。そうだったね」
 マミとミハルはお風呂のしたくをして、部屋を出ていった。
 マミは私のウソにそのままだまされたふりをしてくれたのだ。
 部屋着から普段着に着替え、寮の裏口へ回った。張ってあるセンサーの高さを知っていれば、上を越していくか、下を這って行けば誰にも気付かれずに寮を出ていける。
 寮を出ると、男子寮の灯りが少しだけ見える。
 相当に遠目が効く者なら、その部屋に誰がいるのか見えるだろう。今はそんなことを気にしている場合ではない。男子寮の死角を回り、私は〈鳥の巣〉の監視カメラの両側に一番距離を取れる辺りを確認した。
 寮監から借りたものを装着し、もう一度あたりを見回し、自分の翼を解放した。
 伸びをするように一度開き、そしてたたむ。
 地面を蹴って、思い切り羽ばたいた。
 少し後ろに下がり気味に上昇すると、一気に狙った壁の上へ飛んだ。
 壁を超えると、めちゃくちゃに破壊された住宅地が続く。〈某システムダウン〉の際の被害というより、避難地域に指定され、その後の扉破壊処理でこうなったのだ。
 宅地の先にはいくつか丘があって、林や公園があった。
 扉を破壊された鉄道車両があり、小さな駅があり、街があった。〈鳥の巣〉ゲート付近の駅をコピーしたかのような、典型的な地方の駅の風景だった。
 その先に長細い闇として、空港が広がっている。
 果たして気付かれてないか、それは分からなかった。寮監から借りたヘルメットで、人物の特定までは出来ないだろう、と予想していた。
 ただ、人の侵入、と判断されて警報がなっていたらまずい。