私は真下にいる残り三体の〈転送者〉目掛けて降下した。
 初めはゆっくり、降りるに従い加速する。
 右も左も背後に回り込むようにカーブを描いて追いかけてくる。
「見えてるよ」
 私はひとりごとを言って、下にいた〈転送者〉の頭を使って、反転上昇した。
 追いかけてくる翼の〈転送者〉は、勢いが突きすぎて、上昇出来ない。
「取った!」
 再度反転降下し、両足を伸ばして翼の〈転送者〉二体を同時に突き通した。
 ボンッ、と肉厚の風船が割れるような音が響いた。
「後三つ!」
 床にいる〈転送者〉に捕まらないよう、素早く上昇すると、上から様子を眺めた。
 〈転送者〉は三体、腕を繋いで輪をつくった。
 右回りにグルグルと回り始めると、黒い体が徐々に小さな粒子に変わっていった。
「あの時と同じ?」
 マミがナックルダスターを使って倒そうとした、あの時と同じだ。
 回る速度はどんどんと加速し、霧のように粒子化した〈転送者〉は回転スピードも増していった。
「やばい!」
 〈転送者〉の作り出した竜巻が、フロアのゴミを巻き上げ始めた。
 メモリカードなんて簡単に巻き上げられてしまう。どこにいったかわからなくなったら、もし〈転送者〉に勝っても映像をみることが出来ない。
「はやく決着つけないと!」
 コアが見えない。
 あの時はコアが外、私とマミが内だったが、今回は逆だ。
 竜巻の遠心力を使って蹴ることは出来ない。
 内側に入り込めるほど、径は大きくない。
『今どこにいる!』
 何か声が聞こえた。
 いや、聞こえたような気がした。
 今は、〈転送者〉が作り出す音しか聞こえない。巻き上げたものが空気を切り裂く音しかしないのだ。
『誰?』
 私は目を閉じて思った。
『竜巻か…… 曲がっているポイントにコアがあるはずだ。そこを狙え』
「鬼塚刑事!」
 私は思わず声に出してしまった。
 声に出しても、おそらく遠くにいる鬼塚に伝わるわけもなかった。
 鬼塚からの呼びかけやアドバイスは、精神感応のような距離を無視した対話だった。
「曲がっているポイント」
 私は襲いかかってくる竜巻の動きをみながら、どこで折れ曲がってくるのか、どれがコアの動きなのかを感じ取ろうとした。
『目で追うばかりではダメだ』
 私は目を閉じた。
 音の微かな相異、肌に伝わる風圧。
 それらを総合しながら、曲がっているポイントを探っていく。
「そこ!」
 竜巻のスピードを利用するように、巻き込まれる方向に飛び、グルグルと中心に近づくと、竜巻の中止を輪切りするように蹴りつけた。
「バフュン……」
 蹴った周囲の竜巻が止まり、付近の黒い粒子が円運動をやめ、無秩序に広がり始めた。
 下の方に残った竜巻は以前運動を続けており、上方の淀んだ粒子を巻き込み太くなっていった。
「後、2体…… ね」
 黒い粒子が増えてしまって、くびれのような、曲がるポイントが分かりにくくなっていた。
「一か八か」
 私は上空を取って、漏斗状の竜巻に飲み込まれるように下降した。ドリルのように回転しながら、進むと、まっすぐ真下に足を突き立てた。
「ギュギュギュギュグギュギュギュグウゥ……」
 あちこちから空気が漏れ出るような音がして、そのままコアがひとつ潰れた。
「やった! 後一体!」
 更に黒い粒子を巻き込みながら、ゆっくりとした流れになった太くで低い竜巻は、回転を弱めながら、固体化を始めた。
『固まる前にコアを貫け』
 鬼塚に意図せず情報が流れているというのか。
 私は助言に救われながらも、この精神感応に疑念を抱いた。
『そんなことを考えてる場合か!』
『言われなくても、やりますよ!』
 必死に回りを飛び回って、コアらしきものを見つけた。
「これでおしまい!」
 下部に見えていた最後のコアを蹴り、空港施設の壁へ蹴り飛ばした。
 壁に当たると、コアは平たく歪んで、ボン、と破裂する音がした。
 残った黒い粒子は、コントロールを失い、液体の粒のように床に降り注いだ。
 空気中の黒い粒がなくなると、完全な静寂が訪れた。