誰も居ない時に見……
 まだ先に数分、動画が残っている。
 知っているはず。
 この先の出来事を知っているはずだ。
 思い出そうとして頭が痛くなる。
 もう少しだけスライダを動かす。
 止めると映像が動き出す。

 男が、銃のようなものをツインテールの娘に向ける。
 ツインテールは無抵抗のまま倒れてしまった。
 ストレッチャーが運ばれ、倒れた娘は乱暴に載せられる。
 救急隊は、ストレッチャーを押して白い車へ向かっていく。

「私っ…… 私っ、しっ、死んだの? だからっ」
 息が出来ない。
 私は死んだ?
 死んだからこんな…… 翼のある身体で再生された?
 そんな…… 母さん……
 お母さん……
 助けて。
 動画を見ていられなかった私は、スライダを先頭に戻した。
 涙は止まらなかった。
 私は死んだ。
 私は某システムダウンの時に、空港で殺された。
 母も死んだ。
 喉が締め付けられるようだった。
 おそらく、私の『ババア声』はこのせいだ。
 声に関わる記憶なら、少し思い出せたきた。
 母の死に、私は叫んだ。
 それまで生きてきた分の何倍も、空港で叫んだ。
 病院で目覚めた後は声が出なかった。
 医者は心理的なものが原因だと言っていた。
 確かにこの時の記憶がなくなっていて、今見た映像を自分視点から思い出せ、と言われてもできない。
 次第に心は落ち着いて、声は出るようになったけど、もとには戻らなかった。
 成長期で声変わりするのだから、と父は言った。
 そんなことを考えながら、目をつぶった。
 考え過ぎて、考え疲れて、何も考えられなくなった。
 けれどこのままでは進まない。
 動画をみているだけでは。
 私は何もない壁に向かって声を出した。
「私は今、生きている」
 だから、良しとしよう。
 今が幸せなら。
 私はタブレットを消そうと思って、タブレットに触れるか、触れないかの所でやめてしまった。
 もういい、と思って、私は机にタブレットを置いた。
 立ち上がると、部屋の灯りを消した。
 何も考えずに、自分のベッドに潜り込む。
 ベッドで触れた温かいぬくもりに、一瞬にして妄想が超大化した。
 そうだ、マミが待ちくたびれて私のベッドで寝ちゃったんだっけ。
『マミ……』
 私は温かい体を求めるように重ねていった。
 私は今、生きている。
 記憶も…… たぶんそうそうに取り戻せるだろう。
 もう、〈鳥の巣〉内に入る必要もない。
 マミと仲良く過ごしていく生活に戻れる。
 ベッドの中のマミに絡みつき、首筋を軽く吸うと、マミの体がビクッと反応して、超燃えた。
 寝間着の下に、うっかり手が入っても事故よね。事故。
 事故ってことで…… 柔らかい……
 ああ、私は今、最高に幸せだ。

 机に置かれたタブレット画面にクルクルと処理待ちのサインが表示されている。
 部屋の灯りが消えると、反応して画面の輝度が下がる。
 回っていたサインが消えると、先頭から映像が再生され始めた。
 タブレットの音声出力がオフになっているのか、監視カメラの映像のため音がないのか、いずれにせよ音はでない。
 再生されるのは、監視カメラの映像をつなぎあわせた動画。
 ある二組の家族。
 映像の端々で〈転送者〉が暴れている。
 〈転送者〉から逃げ惑う人々。
 徐々に映る人影が少なくなっていく。
 正確に言うと『動く人影』が少なくなっている。
 レンズが壊れたか何かで、端々が欠けている画像もある。
 小さい女の子が、〈転送者〉に踏み潰されている。
 潰された女の子に駆け寄ろうとするツインテールの女の子。
 父親らしき男がその細い腕をつかむ。
 大きく口を開くツインテールの娘。何か叫んでいる。
 壊れたコンクリートのかけらが落ちてくる。
 むき出しなった鉄筋。
 血だらけの廊下。
 人の代わりに〈転送者〉が通路を闊歩するようになっている。
 カメラが何度か切り替わって、母親らしき女性の死体を前に泣き叫ぶツインテール。
 映像が追っていた二組の家族の娘。
 もう一組の家族は映らなくなって久しい。
 ツインテール娘の父親がその手を引いたかと思うと、急に手を離す。
 動画が切り替わって、ハンディカメラの映像。
 やたらにブレたり、上下に動きまくっている。
 父親が娘の手を離す。
 身振りで何かをカメラの方へ訴えている。
 父親らしき男は、カメラの男が指さす方向にある、黒い車へ走り始める。
 カメラの男の横にいた男が、銃のようなものをツインテールの娘に向ける。
 ストレッチャーが運ばれ、倒れた娘は乱暴に載せられる。
 救急隊のような格好の者が、ストレッチャーを押していく。
 ヘルメットと、マスクの隙間から見える目鼻から、皆、女性のようだった。
 ストレッチャーが白い車の中運び込まれる。
 白い車のハッチが閉められる瞬間、中に乗り込んだ全員ヘルメットを外す。
 全員の頭には、赤黒いラインの入ったカチューシャがついていた。




 終わり