登場人物

白井公子(しろいきみこ) : 〈某システムダウン〉に巻き込まれた過去を持つ主人公

木更津麻実(きさらづまみ) : キミコが恋している寮で同室になった同級生
館山美晴(たてやまみはる) : キミコ達と同室の同級生。ボブヘアに赤黒のラインのカチューシャをしている。
佐津間涼(さつまりょう) : キミコの声をババア声と評した同級生
木場田(こばた)鶴田(つるた) : キミコの同級生。木場田(こばた)と鶴田(つるた)はデキてるというのがマミの説。いつもつるんでいる。







 登校の手段が、小さくて狭いマイクロバスの限定されてから、一週間たっていた。徒歩や自転車による通学が禁止された理由は、通学路にあたる唯一の道路が閉鎖されたからだということだった。しかし、実際にずっと閉鎖されている様子はなかった。
 〈鳥の巣〉のきわを通る通学路を、ガラガラと大きな音を立てて走るマイクロバス。
 それが百葉高校の通学用バスだった。化石燃料専用エンジンの年代ものだ。
 そして学校には、この小さいマイクロバスが一台きり。全寮制の百葉高校の生徒を運ぶには無理があるのだ。だから、徒歩や自転車で通学していたのに。今、小さなマイクロバスは朝も、夕もそれぞれ十何往復かしている。帰りは部活などで分散するが、朝はスケジュールが組まれ、クラス毎に決まった時間の便に乗ることになってしまった。
 そんなマイクロバスの車内に、私とマミは一番後ろの席を取って、小さい子供のように後ろを向いて膝立てで座り、後ろの景色を眺めていた。
「それにしても凄い良い天気だよね〜」
「けど、ここ何日か、ずっと同じ感じだよね」
「お前ら何子供みたいな座り方してんだよ」
 私は声でピンと来た。
 だから振り向かなかった。
「……いいか、そんな座り方してると、パンツ見えるぞ、っていうのが真意なんだぞ」
 私とマミは慌ててスカートを抑えた。
「佐津間、またババアにちょっかい出してんのか」
 木場田がそう言った。佐津間の隣に鶴田、鶴田の隣に木場田という並びだった。
「ちょっかいだしてる訳じゃないよ」
「ちょっかいは出してなくてもパンツは見ようとしたでしょ?」
「うるさいな、そんなことしてない」
「あっ! 今、パンツ見ようとした!」
 佐津間は慌てて反対を向いた。
「本当にお前、声だけ聞くとババアだな」
「そういう言動一つ一つが『ちょっかい』っていうのよ」
 マミが体をそらし、佐津間の方を向いてそう言った。
「だから、ちょっかいじゃない、って」
「佐津間は年増好きだから、ピッタリなんだろ」
「ちがっ……」
「!」
 ボン、と大きな音がしてマイクロバスが揺れた。直後から、走行中の大きな音…… エンジン音…… がしなくなっていた。
「ありゃ。またエンジン止まったか」
「……」
 マミの横で、正面を向いて座っていたミハルが立ち上がった。
「ミハル? どうしたの?」
「……」
 ミハルはショートボブに赤黒いラインの入ったカチューシャをしている。ミハルはお風呂の時も寝る時も、一切カチューシャを外さない。髪が洗えなくて臭くなるんじゃないか、と思うが、未だそんな匂いがしたことはない。
「ミハル?」
 立ち上がったミハルはゆっくりと後ろを向いた。
 私とマミも、そのまま後ろを向いた。
 通学用のこのマイクロバスは、今や完全に停まっていた。
「……」
 ミハルが指さした。
「なに? 何かいるの?」
「いる」
 私はミハルのその声と同時に、指さしたものを見つけた。〈転送者〉だった。
「見つけた」
「えっ…… どこ?」
 マミはまだ見つけられない。
 佐津間や鶴田、木場田も含め、マイクロバスの後部にいた生徒が一斉に後ろを見始めたが、〈転送者〉を見つけたものは他に出てこなかった。
「?」
「|公子(きみこ)、どこにいるの?」
 私は指をさしてマミに〈転送者〉の場所を教えようとした。しかし、指の先が良く見えないようだった。だから、マミに顔と体をより近づけていった。息がかかるほど近寄った。
 唇を重ねてしまおう…… か。
 急速に気持ちが高ぶってくるのがわかる。
「え〜 全然わかんない……」
 マミは体をそらしてそう言った。
 探すのを諦めてしまったようだった。
「チッ」
「?」
「な、なんでもないよ」
 あとちょっと、〈転送者〉があとちょっとこちらに近く寄ってくれば、マミともう少し楽しい時間が過ごせたというのに。