「ま、これでこの道が閉鎖されているっていうのは間違いじゃないことが分かったよね」
 私が言い終わるか終わらないかのタイミングで佐津間がかぶせてくる。
「今さら何あたりまえのこと言ってるんだ」
「あんたに言ってないし」
「こっち向いてるから」
「向いてもないし」
「あらあら」
「マミ、何が『あらあら』よ。そんな反応ないじゃない」
「……ごめん」
「あんたのせいで泣きたいわよ」
「うるせぇ」
 本当に口が減らない男だ。
 そもそも男は嫌いだが、その中でも佐津間は嫌いなタイプの人間に相当する。
 ようやくエンジンが直ったようで、再び大きな音が室内に響き出すと、大した会話もないまま学校についた。
 いつものように授業はすすみ、昼食前の授業中だった。
「ちょっと脱線するけど」
 先生の口癖だった。
 脱線、という言葉はあまりネットで見聞きしないことばだったが、なんとなく知っていた。
「こんな風にコンピュータが発展してくると、本当に世界全体がシミュレートされた世界なんじゃないか、っていう説が、本当のように思えてくる。コンピュータの中にコンピュータを作り、またそこに集約していく。シミュレータオンシミュレータオンシミュレータオン…… ずっと続く、みたいな」
 無限に広がっている宇宙の中に、もっと多くの世界やシミュレーション世界がある…… のかもしれない。
「人類はただのデータで、本当に銀河の何万倍もの大きさの生物が作ったコンピュータで動くシミュレーション世界なのかもな」
「先生。こんな精密な世界は作れないですよ。この教室の中でも、この人数が同時にモノを考えているんですよ。コンピュータだったらハングアップしている」
 ああ、これだから単純な奴は。
 佐津間が割り込んだ。
「沢山のユニットで並列計算処理するから問題ない。一人一人の思考なんてそもそもそんな難しいことはしていないだろう?」
 それはそれで極論だが、方向としてはそうだ。もしこの世界をシミュレートしようと思ったらものすごい数のユニットで同時に並列計算させているだろう。ハングアップするような一直線しか動かないシステムでは無理だ。
「個別にはハングアップしてるから、あながちハズレでもない気がするが」
「木場田とかが、よく答えにつまって固まってるのはハングアップしているってことか?」
「木場田はハングアップなんかしてないぞ。必死に計算してる」
 鶴田がすかさずフォローする。
 この二人、男同士の友情にしては深すぎる、というのがマミの意見だ。
 確かに世の中が計算機の中の出来事、としても不思議ではない。ものすごく発達した科学は、データーセンターのような施設を作って情報を集約し、バックアップしていく。
 それに飽き足らず、情報を使って先に予測を建てようとする。未来が判れば大金持ちだ。
 そうやって未来予測する為に大量の情報を使いながらシミュレートしたりディープラーニングしていく。その過程が、今我々が生きている一瞬、だとしても不思議ではない。ものすごく似た社会の、何年か先を計算し、株?で儲ける為、あるいは死を、絶滅を回避しようとしているのかもしれない。
「じゃあ、我々の意識は? 自由意思というやつは何なんです? 計算可能なのですか?」
「自由意志だと証明することは難しい……」
「自由意志だ、と思っていることが実は計算の上の出来事だったら……」
 皆が思い思いに口に出し始めた。
 時計的にも、そろそろ授業も終わる頃だ。
「そうだな。これが判れば様々な謎ももわかるかもしれない。皆の一人一人を形成しているソースコードを暴くことが出来るかもしれないな」
「そんなことありえねぇっすよ」
 木場田が言った。
「ありえねぇ。俺はいまここでこうして生きていることを信じる」
「俺も信じるぜ」
 鶴田があいずちをうった。
「……時間だな。脱線がすこし長かったが。さ、終わりにしよう。日直」
「起立、気をつけ、礼」
 そうして授業が終わった。
 昼食の時間になって、私とマミとミハルでお昼ごはんを食べる為、校庭近くの木陰になる階段のところに向かった。
 まだ今の時期なら影があるから、三人ぐらい並んで食べることは出来る。
「さっきのさ、世界がシミュレーションだったらって話、なんか不思議な気持ちがする」
 マミが購買で買ったパンをかじりながらそう言った。
「不思議、って?」
 私はある点ではそう思ってもしかたない、と思い、けれど自分はどうしようもない、つまりシミュレーションじゃないんじゃなか、と思っていた。
「シミュレーションしていく世界の中でも、結局そういうシミュレーションのようなものが出来ていくみたいな説明だったじゃん。そんなものを作るために人間は探求しているんじゃないじゃん」
「このまま人工が増え続ける訳にはいかないし、エネルギーを使い続けるわけにはいかない。電子上にあるものと肉体上にあるものが等価なら、電子上に集約していく流れもあるかと思うけど」