突然、ミハルがそう言った。
「えっ?」
 私は世界がシミュレーション世界を作っていくことが自然だ、とは少しも思わなかった。そうなる可能性はあるかもしれない、とは思ったが。
「本当にこの体の中にある『私』とシミュレーションされた『私』が同じだと思ってるの?」
「同じことを逆に聞くわ。どこが違うの?」
「えっ…… 明確に違うじゃない。私達はタンパク質で出来た細胞の上にいるのよ」
「コンピュータがタンパク質で作られ始めたら?」
「まだ、そんなものないじゃない?」
「実用的ではないレベルというだけで、不可能ではないわ」
 二人は食事もそこそこに言い争い始めた。
「まぁまぁ」
「公子、公子はどう思うの?」
「理由は分からないけど等価じゃないと思う。等価かもしれないけど、私は私だ、というところはゆずれない。生や死の重みは同じだとおもう」
「?」
「いざという時にコンピュータを破壊出来ない?」
 マミがそうきいてきた。
「うーんけど、そこまでではないかも。自分が助かる為なら、躊躇なくコンピュータを破壊する」
「そこに何億人も住んでいたとしても?」
「……」
「……ミハルはどう思う?」
「……」
 ミハルはパンをかじりながら校庭の方をじっと見ていた。
 確かに人が住んでいる、と言われた時に、そのシミュレーションシステムを躊躇なく破壊出来るか、と問われれば、ためらってしまう。
 なんとか仲良くやっていこうとは思うだろう。
 しかし侵略があったら、壊すだろう。
 電子上の命と、我々の命が等価でないと思っている証拠なのかもしれない。
「ミハルは?」
「なに?」
 さっきまでの会話はまるで無かったような返事だった。
 しかも、その言葉自体が私達に向けられたものではない事がわかった。
「木場田に鶴田? ついで佐津間まで…… どうしたの?」
「お前に用はない」
「だから、何?」
「ここじゃ話しづらいからちょっと一緒にこっち来いよ」
 ちらっとミハルをみやるが、いつもの無表情のままだった。
「ちょっと、何なの?」
「だから関係ないだろう、館山に用があるんだ」
「私も行く!」
 立ち上がろうとする私を、ミハルは抑えるようなしぐさをした。
 ミハルがこうやって私達の行動を止めよう、としてくるのは珍しい。すくなくともこちらのことを考えての行動をしている、ということはいつもの何を考えているのか分からない、暴走モードではないはずだった。
「うん、分かった」
 ミハルはパンを口に含み、もぐもぐと口を動かしながら木場田達について校舎の方へ帰っていった。
「なんだろう?」
「ミハルのことだからね〜 な〜んにも想像つかないよ」
「心配だよ」
「大丈夫だよ、こうやってたもん」
 マミは『あなた達は座ってて』というようなさっきミハルがみせた仕草をしてみせた。
「そだね」
 確かに考えてもしかたない。
 二人で食事をすませた後、教室へと向かった。
 北校舎と南校舎をつなげている通路の扉を開けると、通路の奥に木場田達を見かけた。
「あ、木場田! ミハルは?」
 ビクッとした木場田の足元に、ミハルの姿が見えた。
 急に鶴田が私とマミの方に走ってきて、私の両肩をつかんだ
「ちょっと待っててくれるかな」
 私は鶴田の頭を避けるようにして、ミハルの方を見た。
「!」
 裸だ、いや、裸ではないのかもしれないが、肩が見えている。
「ちょっと、ミハル、裸じゃないの?」
「違うから! ちょっと下がって待っててくれるかな」
「あんた達ミハルになにしてんの」
「だから、なんでもないから」
 私は鶴田の腕を払って通路に入った。
 マミも鶴田を振り切ってついて来た。
「あっ……」
 佐津間がズボンのベルトを外して、シャツを入れ直していた。