「ミハル、ちょっと聞きたいんだけど」
 私は昼間の出来事を確認するつもりだった。
 まるで佐津間の股間を咥えていたような……
「……」
「ミハル? 聞いてるの?」
 小さいバイブレーションの音がして、ミハルはスマフォを取り出した。
 画面を確認すると、私の言ったことには答えず、
「用事があるから、先に帰ってて」
 と言って、カバンを持って教室を出てしまった。
「ちょっと……」
「大丈夫だよ、子供じゃないんだから」
「けど、昼間のこともあるし」
「ああ…… あれ?」
 マミは思い出したように言った。
「そうねぇ。あれは男の子を楽しませていたようにしか見えなかったよね」
「ミハルからは言いたくないだろうから、佐津間の方から聞き出すか」
「そういや佐津間って、木場田と鶴田と一緒にいるよね〜 木場田と鶴田は相変わらずだけど」
「マミ、また何か考えているの?」
 昔、木場田と鶴田が男同士なのに仲が良すぎる。出来ているに違いない、という話しをしたことがあった。今回は佐津間を加えて、また別のことを考えたのかもしれない。
「いや、佐津間はなんかキミコ好きみたいだし。キミコもまんざらじゃないみたいだもん」
「私は佐津間なんか全然興味なしだよ」
 本当に本当だ。私は女の子が好きなのだ。
「けど、佐津間はキミコの声が好きだって」
「イヤよ。『ババア声』だから好きって言われて何も嬉しくない。『ババア声』を認めなきゃならないのよ」
「ババア声なんて言ってないじゃん」
「転校してきた時、佐津間本人が私に言ったのよ。マミは入院してたから知らないだろうけど」
「それで意識してんだ」
「ど〜ゆう意味よ。ホントにあいつ嫌い」
「……あれ。本当に嫌いみたいね」
「だから言ってんじゃん」
 マミは何かこっちをみて笑った。
「な〜んだ。キミコも好きな人が出来たと思ってたのに」
「好きな人はいるけどね」
 私はマミの方をじっとみて言った。
 いや、少しそうしただけで、視線をそらした。本当に女の子が好きなのが伝わったら、今までのように仲良く出来ないんじゃないか、そう思うと怖かった。
「えっ? 誰?」
「……ごめん。ウソ」
「一瞬、私の方見つめるからビックリしたよ」
「うん、いるんだけど。今は内緒」
「ふ〜ん」
 マミが私の顔を覗きこんできた。
 そのまま唇を突き出せばキス出来るくらい。
 凄く心臓がドキドキしていた。



『ふ〜ん、って。じゃ、マミは誰か好きなひといるの』
『いるよ』
『えっ、誰? 誰?』
 マミの視線が、自分に向けられている。
『誰だと思う?』
 どんどん近づいてくるマミの顔。
『……えっと』
『ほら、ここにいるんだけど……』
『……あっ、あの…… 』
 どうしよう、止めようと思った手に、マミの胸があたる。
『ご、ごめん』
『いいよ、キミコなら』
 もう言葉よりも吐息のように息がかかる距離だった。手はマミの胸に置いたままだ。
『じゃ…… いただきます……』
 そのままキスをしようと目を閉じた。

 

「キミコ、そろそろバスくるよ?」
 目の前にいたと思っていたマミが居なかった。
 マミは自席でバッグを持って立っていた。
「キミコ? どうしたの? 首かしげて」
「キスの練習…… って、イヤ、なんでもない」
「えっ? 車道?」
「あっ、だから、なんでもないよ。さあ、帰ろう」
 バッグを持って立ち上がり、椅子を戻した。
 時々、マミが私と結ばれたがっている、と錯覚する時がある。こちらの好意はしっかり伝わっているはずなのに、いざ、となるとはぐらかされている。