「また子供みてぇな座りかたするのかよ」
 佐津間が何か言っている。
 私は目を凝らして殺気のする方向を見つめる。
 横をみると、ミハルも同じ方向を見ていた。
 もう一度視線を戻すと〈転送者〉を処分する為に、軍が発砲しているのが見えた。
 黒いE体ーーEの文字を横に倒したような首無しーーの〈転送者〉に何度も弾丸を当てているが、一向に効果がない。
 某システムダウンが起こってから、百葉高校の辺りや、〈鳥の巣〉を中心としたエリアにこの〈転送者〉という侵入者が現れるようになった。ものを破壊し、人を襲う。扉や蓋があるとそこを利用して出入りしてくる。酷く厄介で恐ろしい者だった。だからこの〈鳥の巣〉と呼ばれる大きな壁で辺りを囲んだのだが……ごくまれに、こうやって〈鳥の巣〉以外に〈転送者〉が現れる。
 |〈転送者〉(やつら)は内部のコアという部分以外は、多少傷ついても自己修復してしまう。コアを見つけ、身とコアを分離しないと効率的に破壊出来ないのだ。私は|経験上(・・・)それを知っていた。
「苦戦してる」
 ミハルがボソりと言った。
「ナニナニ?」
 マミが同じように後ろ向きに椅子に座り直す。
「……」
 マミは目を細めている。
 が、昨日と一緒で何も見えていないようだった。
「つまんない」
 マミは正面を向いて座り直した。
「ほら、佐津間、見てみて?」
「なっ!」
 気がつくと佐津間がこっちをちらっとみてから、正面に向き直った。
 ほおが赤い。
 反対側のマミは、クスクス笑っている。
「ホレホレ……」
「あっ!」
 マミが私のスカートをめくっていたのだ。
「こら! 佐津間、見やがったろ」
「見て、え、よ」
 見たい、だと!!
「あっ、いや、言い間違え…… 見てねぇ」
「ふざけんな!」
 私は佐津間のほおを叩いた。
 佐津間は向こうを向いた。
 私の手も痛かった。佐津間のほおも叩かれたせいで赤くなっていた。
 木場田や鶴田、マミ。周りの席のクラスメイトの視線が集まった。
 やり過ぎた…… 引いてしまった。
「木更津がヒラヒラさせるから…… チラッとだけだ。ガン見したわけじゃないぞ」
「さ、最初から正直にそう言えばいいのよ」
「すまん」
「こっちも引っ叩くことはなかったよね。ごめんなさい」
 自分で謝って、謝っている自分をキモく思ってしまった。
 けれど謝らなければ、悪目立ちして『変な人』スタンプを押されてしまう。
「これくらい、い、痛くねぇし」
 ばぁか、佐津間。
 こっちは男になんかこれっぽっちも興味ねぇんだし。
 デレてるとか思ってんかこいつ、気持ちわりぃ。そう言いたかった。けれど表情にその気持ちが出ないように両手で顔をおおった。
 クラス内での立場というものを守らなければならない。
 冷たい女であってはならないのだ。
「うぉっ」
 轟音がして車内が大きく揺れた。
 私は後ろのガラスに頭を打ちそうになった。
「何?」
「エンジンかかった」
 ミハルはもう正面を向いていた。
 確かにエンジンのガラガラ音が始まっていて、運転をしているおじいさんが戻ってくるのが見えた。
 スクールバスは走り出し、途中で止まることもなく学校についた。
 クラスに入ると、担任の佐藤が先に教室に入っていて、何やら背の高い女性と話していた。佐藤先生は男として大きい方ではなかったが、小さい訳ではなかった。女性は、その佐藤先生より背が高かった。
「……誰だろう?」
「おはようございます」
「先生、その人誰ですか?」
「ちょっとまて。後で話すから。あと、その人誰って言い方あるか」
 何人かが寄っていって先生からその女性のことを聞き出そうとしたが、答えはなかった。金髪の長い髪。黒い長袖のワンピース。今の季節の百葉で着るには、暑すぎる格好だった。その上、袖や裾にはファーが施されている。