「分かった」
「じゃあ、追っかけるね」
 マミとハイタッチして、教室から送り出した。
 私はバッグをもって職員室に急いだ。
 職員室に入るとあまり時間もかからずオレーシャを見つけることが出来た。
 私が近づいていくと、オレーシャが立ち上がった。
「白井さん、私に用ですか?」
 周りの教師の視線が集まった。
「合宿のことで……」
「〈鳥の巣〉内のことについてですか?」
「そんな感じの内容です」
 私は曖昧に答えた。
「佐藤先生、面談室って今空いてますか?」
 佐藤先生が手元の端末をフリックして助教を確認しているようだった。
「……ん、っと。大丈夫だよ、オレーシャ」
 オレーシャって、呼び捨てかよ。やるな佐藤先生。
 ちょっと二人の関係に興味を持った。
「ありがとう。じゃ、白井さん、面談室行きましょう」
「えっ、ここじゃダメなんですか?」
「ここでは個人的な会話の内容が筒抜けになりますので、面談室でうかがうことになってます」
 佐藤先生には言われたことのないセリフだ。
 オレーシャの腰のあたりまである金髪が揺れるのを見ながら、面談室についた。
 オレーシャがカードをあてると、カシャンと軽い音がして扉の鍵が開いた。
 先生が手前に座り、私は奥に座った。
「ここなら話しても平気ですよ。私は個人情報は守ります。さっきあの場で話さなかったのは、情報の勉強を教える立場として、情報の重要性を伝えたかったからです」
「そうですか」
 オレーシャがかきあげた金色の髪が、窓からの光を浴びてキラキラと輝いて指の間から落ちてくる。
 長いまつ毛と、綺麗な瞳、鮮烈な口紅の色、頬や少し見える胸元の肌のきめ細やかさ。
 若いロシア女性が最高だ、という人がいるが、今、少しだけ理解できた。
「……で?」
「あっ、す、すみません。みとれてしまったもので」
 クスクスとオレーシャが笑った。
「学生が先生に対してお世辞を言うものではありません」
「……そんなことありません。先生はすばらしいです。美しいです」
 両方のほおをそれぞれの手で抑えた。
「なんか恥ずかしいデス。そんなことより合宿の話しに移りましょう」
 私はいきなり言っていいものか迷った。
「あれ? 話しがあるのでは?」
「……はい」
「待ちます」
 私は思い切って言ってみた。
「合宿の話なんですが、私、参加したいです」
「はい、歓迎です。もちろん、参加者が多い場合は技術の高い人を優先しますので、期待にそえるかわかりません」
「あっ、それもあるのですが、私、〈鳥の巣〉には入れないんです」
「そうですか。それでは合宿は参加できません。本当に残念です」
「違うんです。〈鳥の巣〉側から要注意人物になってしまっていて」
 オレーシャがうなずいた。
「なるほど、入りたいけど、ブラックリストに載っている、というわけですか」
 脇においていたタブレット端末を取り出し画面に指を滑らせた。
「まず、本当に『ブラックリスト』に載っているかは確認します。貴方の勘違い、ということもありますから。そもそもそんなに簡単に〈鳥の巣〉には入れない。入れたのだとしたら、簡単にブラックリストに載せないでしょう。何しろ、人手が足りないのですから……」
 ということは、合宿という名目ではあるものの優秀な学生を〈鳥の巣〉に入れ、システム再構築を手伝わせるという話なのだろう。
「今、分かるのですか?」
「今分かる限りでは『ブラックリスト』に白井さんの名前はありません。これが最新かが問題ですが、問い合わせてみれば簡単に分かることです。後で、生徒全員照会してみます」
「ぜ、全員ですか?」
「IDはわかってるんでリストの付け合せをしてもらうだけです。秒もかからないと思います」
 そうだろうか。この国の行政がどれくらいのレベルか理解が間違っていないだろうか? そんなに自動化・IT化されていない気がする。
「そこが不安だったのですね。大丈夫ですよ。とにかく〈某データセンタープロジェクト〉は人材が不足しています。一度入れているということならば、能力は申し分ないはずですし」
 タブレットを下げ、私の目を見つめた。
「私にまかせてください。一緒に行きましょう。合宿へ」
 先生は握手を求めてきた。
 手を差し出すと、ギュッと握られた。
 白くて柔らかい手だった。
「よろしくお願いします」
「はい。また明日」
 私はおじぎをして面談室をでた。