「ここ、だよね?」
 私は不安で独り言を言っていた。
 そして扉の上に突き出している部屋名を指さした。
「演劇部。うん。間違いない」
 しかし、開けるのには勇気がいる。
 教室もカーテンが掛かっていて中が見えなかったし、扉の擦りガラスにも黒い紙を貼り付けてあって、光が入ったり漏れたりしないようになっている。
 しかし、マミが神代さんに話をつけてくれて、何か変装の道具を貸してくれることになっているのだ、何も不安なことはない。
 そう思って取っ手に手をかけるが、やっぱりそこでも躊躇してしまう。
「……」
「誰?」
「ぎゃっ!」
 私は思わず声を上げた。
 背後から近づいてきた何者かは、『誰』の『だ』と『れ』の間に私の脇腹を指で突っついてきたのだ。
「す、すみません」
「なんだ。その声は白井さんだね?」
 私は振り向いた。
「その声は……って失礼ですね、|神代(こうじろ)さん」
「……声のこと、気にしてるんだっけ。それは失敬した。というか、話は聞いているよ。さっさと入り給え」
 神代さんは扉の方に手を差し伸べた。
 何やらマントのようなものを羽織り、魔女のようなトンガリ帽をかぶっていた。
「その格好と喋りかたはなんですか?」
「近々行う演目の練習をしているのだよ。もちろん魔女という役柄だ。見ればわかると思ったが。この説明で理解してくれたかね?」
「面倒くさいんで普通に話してよ」
「……ノリが悪いなぁ」
 神代さんは演劇部部室の扉を開けた。
「さあ、どうぞ」
 私は神代さんに肩を押されながら部室へ入った。
 中は部室というより倉庫で、天井の灯り近くまで棚から小道具がはみ出るように詰まっており、薄暗かった。かろうじて足をおけるところを探しながら奥へ入っていった。
 棚の横を抜けると、教室への抜ける入り口があった。
「ようこそ白井さん、おまちしてました」
 フードを被った女子が一人立っていた。
 そこは舞台になっているようで、辺りは暗く、真ん中にスポットライトがあたっていて、その中心に椅子が置いてあった。ようこそ、と言った後の両手の向きがそこを差してていることから、そこへ座れということらしかった。
 私は薄暗いなかを慎重にあるいてそこへ座った。
 鏡を差し出されて、私はそれを手で持った。
「ツインテール、は触っちゃダメなんですよね」
「えっ?」
「マミさんから聞きましたから。えっと髪型が出来ないので、体形とメイクと、服装でいきますんで……」
 遅れて神代さんも舞台にやってきた。
「……やっぱり胸か」
「えっ?」
 言った時には神代さんが私のブラウスのボタンを外し始めていた。
「何するの」
「サイズアップ」
 私がブラウスを脱ぐと、フードをかぶっていた女の子がそれをハンガーにかけた。
 私は鏡を持ち、あれこれ工夫しながら腕で胸を隠した。
「ほらっ…… じゃま」
 神代さんが、私の腕をとって上に上げた。
「22年度のヤツなら合いそうね」
 フードの女の子がささっと走って戻ってきた。
「そ、それなに?」
 膝や肘につけるようなサポーターのように見えた。
「サイズアップ用のオーバーブラよ」
 はじめて聞く単語だった。
「オーバーブラ?」
「ブラの上にOnするブラジャーよ」
 神代さんはそのオーバーブラを私の胸の上のあてがい、首をひねる。
「うーん」
 ジロジロ胸を見られるので、少し肘を下げて胸を隠し気味にする。
「ほら、腕を下げない」
 これから前転をするかのように腕をあげていた。
「ちょっとゴメン」
「いやっ!」
「……」
 神代さんは固まってしまった。