私のブラを引っ張って、ナマチチを見て、そのまま固まってしまったのだ。
「ショックなのは私の方よ、なんでこんなことするの!」
 私は引っ張られてズレたブラを整えながら、そう言った。
「……」
 まだ固まっている。
 首をブルっと振ると、神代さんは話し始めた。
「ごめん、おもったよりも重症だったもので」
「私の胸が小さいのは別に病気じゃないのよ。しかも重症なんて言い方しないでよ」
「この状態でパットバリバリ入っているとは」
 ブラの上から胸を揉んできた。
「やめて!」
「つーかこれにオーバーブラをすると歩いているだけでブレてしまうわ。ちょっとやり方を変えるから、ブラ外しといて」
「ここで脱ぐの?」
「じゃあ廊下に出る?」
「見ないでよ」
「見ないと付けられないでしょ」
 どうやら、パットをしてサラシを巻き、その上のさっきのオーバーブラをするようだった。
「こんなスポットライトを浴びても影がこれだけしか……」
 神代が覗きこむようにして私の身体をみていた。
「憐れむような目で見ないでよ!」
 神代さんと、フードの女の子がサラシを引っ張り、ぎゅうぎゅうに締め付けてきた。
「い、痛いんだけど……」
「我慢して。これが土台になるから、しっかり巻いておかないと」
「わかった。我慢するから、とにかく、早くして」
 結局、胸で五分、メイクで三分、服を着替えてさらに四分と十二分もかかったしまった。
「ほら、見てみ?」
 私はずっと手に持っていた鏡で一通り確認した。
「髪型はツインテール、顔の輪郭が分かりにくくなるメガネをして、派手なリップでそこに注目させ、」
 神代さんは私の持っている鏡を下に向けた。
「胸はA→Fへのサイズアップ、ま、これは本当はGとかHになる予定だったけど、土台が残念だったということで」
「そこの部分しつこいよ」
「……ごめん。豊胸した上に制服とは違う色のシャツを来てるから、まさか白井さんとは思わないね。そして若干ダメージが入ったジーンズ」
「これなら、尾行してもわからないね」
「問題は、マミが白井に気づくのか?」
「それは写メって送っとけば」
「そうかそうか」
 私はマミの変装後の画像と、自分の画像を神代さんに撮ってもらい、自分の画像はマミに送った。マミは、位置情報のメッセージを送ってきた。
『今はカフェで待機中』
 どうやら、ミハルは近所で一番大きい街へ行っているようだ。
「制服どうしよう」
「マミのと一緒に、私達で寮に持って帰っとくよ」
「ありがとう、じゃ、行ってきます」
 神代さんに先生に見つからずに学校を抜けるルートを教えてもらい、その通りに進んで学校を出た。
 〈鳥の巣〉の壁とは真反対の方向で特に危険はない。
 学校を出ると、誰ともすれ違わないまま小さなバスターミナルについた。
 誰も載っていないバスは乗車口を開けて停まっていて、私は乗り込んで座席に座った。
 おそらくモニタをしていたのだろう、運転手が小屋から急いで出てきた。
「出発します」
 運転手はルームミラーでチラッとこっちをみた。
 慣れない視線に私は戸惑った。
 おそらく、私の胸を見ている。
 この身長、この体の幅や厚みから考えると、胸だけ不自然に大きいのだ。
 この歳になっても、男の人に胸を凝視されたことはなかったから、バスの運転手のおっさんの視線がいやらしいものに思えて、怖くなってしてしまった。
 変装です。パットバリバリ入っています、と服に書いておきたいくらいだった。
 バスはいくつか停車場を通り過ぎた。
 荒れ果てた畑、ボロボロの家が、キッチリした住宅街に替わってきた。
 やはり、〈鳥の巣〉周辺は人が住まないのだ。
 学校や寮は安全なのに?
 そういう事実を、皆は知らない?
 いや、違う。通学路で〈転送者〉に襲われた。
 学校や寮には何か、普通に分からない仕掛けがあるのだろうか?
 そんな考え事をしていると、バスの座席が混んできた。
 つり革を持っている男の人の視線が気になる。
 やっぱりこっちをみている。こっちというか、胸だ。
 急に自分が自意識過剰になったのか、とも考えたが、やっぱりあからさまに視線が胸を向いている。気が付かない訳がない。