派手に走って注意を引いてもいけないし、なにより胸の仕込みがずれてしまうかもしれない。上下に揺らさないように早足で移動した。
 それでも胸の詰め物が揺れてしまい、ものすごく邪魔だった。
 マミのメッセージをチェックするが、やはりみつかっていない。入った時のフロアを離れ、エスカレータに乗って上がった。
 上がっても、全くミハルの気配はなかった。
 他に男三人を連れて歩いているのだ、平日のショッピングモールではかなり目立つ存在のはずだ。
『こっちは今三階、そっちは居た?』
『二階をもう一度回っているけど、いない』
 いた? いないのやり取りで二画面ほど流れていく。
 息切れして、早足のペースが落ちてきた。
 中央の吹き抜けの辺りでしたのフロアを覗き込むと、聞き覚えのある男の声がした。
「それじゃ、そこに行ってみる?」
 佐津間だ。どこに行ってみるつもりなのだ?
 必死に角度を変えて覗き込むが、吹き抜けからは姿が見えなかった。
 メッセージアプリを音声に切り替えて、マミに伝える。
『三階より下。中央の吹き抜けのあたりで声が聞こえたよ』
『わかった、2階の吹き抜けをみてみる。キミコは1階まで下りて』
 慌ててエレベータのボタンを押すと、ちょうど下りがやってきた。
「順番を守れぇ、ボクが乗りますぅ」
 変な男に腕を引っ張られ、エレベータから引きずり出された。
 もう一度、乗ろうと思って扉に向かうと、今度は老人が手を横に張り出してきた。
「順番も守れんのか!」
「私が押したから止まったんです」
 言っているうちに中の人数が増えはじめ、私が乗った瞬間、重量オーバーの警報音がなった。
「降りろぉ、お前が降りろぉ」
「若いもんは下りてあるきなさい」
 人の腕を引っ張る男と、間違った順番を押し付けてくる老人の為にエレベータを一つのがした。
 私は周りを見渡して階段を見つけると、すばやくそこに回り駆け下り始めた。
 階段を降りていると、胸の詰め物の振動がサラシを通じて、繰り返し胸に伝わってくる。すこしこすれてしまっているのだろうか。意識し始めると、余計にムズムズするようになってきた。
 一階に降りた頃には胸の感じが変な風に出来上がっていて、ちょっとした動きを感じ取ってしまうようだった。
『どうしよう、動けない』
『どうしたの、具合悪いの?』
『胸が……』
『?』
 変な疑問符がいっぱいかかれたスタンプを返してきた。
『とにかく、動けない、そっちにはいた?』
『いない』
 私はスマフォとフロアを交互に見やっていると、通路の先に男子の姿を見つけた。
『いた、佐津間が一階にいた!』
 私は胸の詰め物が動かないように意識的に腕を回して抑えるようにして歩いた。
 余計に胸が強調されてしまい、すれ違う男性の視線を余計に集めた。
 やばい、恥ずかしいせいで、意識しなくていいのに余計胸の突起を感じてしまう。
「ん……」
 変に息が漏れて人を振り向かせてしまう。
 具合が悪いと思われるのか、女性も見るようになってきた。
 もう、ヤバイ……
「(キミコどうしたの?)」
「(マミ……助けて)」
「(何があったの? 言って)」
 恥ずかしくて、理由を言えなかった。
「佐津間はあっち、後で追いつくから、先に……」
「ダメよ、キミコに何かあったら私一生後悔するよ」
 えっ、けどこんなところで声に出しては言えない……
「大丈夫だから」
「胸? 胸が苦しいの?」
 苦しいわけじゃないんだけど…… 胸には間違いない、と思って私はうなずいてしまった。
「ちょっと、それヤバイじゃない。救急車呼ぼう」
「だ、大丈夫だから苦しいんじゃないから」
「けど、胸って…… どういうこと?」
 マミが背中をさすってきた。
 サラシを通じて、胸の突起を刺激してきて辛い。
「あっ…… マミ…… やめて」
「ごめん、くるしいの? 触らない方がいい?」
「触らないで、じっとしてれば治ると思うから、ミハルを追って」
「キミコを放おってはおけないよ」
 苦しいの、苦しくないの、で騒いでいたせいで、回りで人が立ち止まるようになって、少し囲まれているような状況になった。