「鶴田✕木場田の下克上でしょ?」
「……」
 私の一言で、マミと神代さんの間によく分からない会話が始まった。
 しばらくその会話が続いた後、勝ち誇ったようにマミが言った。
「やっぱり木場田と鶴田が出来ている、と考えいてる人はいるのね。なんか安心しちゃった」
「『腐の道はいつも腐ってる』ってのは本当ね」
「神代さん変なこというね。それどういう意味」
「腐女子はいつでも腐の目線でものをみているってこと…… ああ、腐の会話は楽しいわ」
 神代さんはテーブルに腕を伸ばし、その腕に顔を乗せて笑った。
「……言わせてもらうなら、マミの言う通り疑わしいのは疑わしい。一番可能性のあることだと私も思うよ。けど、キミコの意見も一理あるよね。実際を見てないんだから、推測の域はでてないわ」
「……」
 私とマミに変な空気が流れた。
「ということで尾行を続けることね」
「……」
 マミと顔を見合わせた。
「あの胸の詰め物はもうイヤよ」
「……そんな変なことになったの? ちょっと胸見せてみなよ」
「だからそれがイヤだっての」
 神代さんが私の部屋着の襟首を引っ張った。
「!」
「全然腫れてないじゃん」
「しつこい!」
 胸が小さい、という嫌味も織り交ぜてきた。本当に悪ふざけが過ぎる。
「神代さん、とにかくそれは『ナシ』でお願い」
 ちょっと声のトーンが違った。
 神代さんも態度がガラッと変わった。
「は、はい。わかりました」
 神代さんの声が震えていた。
 よっぽどマミの事を恐れているのだ。私はマミの顔を横目で確認したが、それほど怒っているようではなかった。
 何か過去の経緯があるに違いない。
「何か別の変装を考えておきます」
 神代さんはそそくさと食堂を去っていった。
 私達も神代さんが持ってきた袋を抱えて、部屋に戻ることにした。



 翌朝、マイクロバスに乗り込むと佐津間達が手招きした。
「こっちこっち」
 この一番後ろの席につくまでが、恥ずかしい。なんかグループ交際でもしていると思われていそうだからだ。
 一旦そこまで言ってしまえば、一番後ろの席の為、クラスメイトの視線も気にならない。
「……」
 私はこっそりミハルと佐津間らの間に何かサインのようなお互いだけが分かり合うような表情、仕草がないかみていた。
 しかしバスに乗り込んでから、ミハルは誰とも話さず、表情も変えないまま、いつもの奥の一番端に座った。
 ふと、佐津間と目が合うと、小さく手を上げて合図をして来た。
「よ、よお」
 私は何も考えず、佐津間のほおを張っていた。
「いっ、いってぇな……」
「何が『よお』よ。どういう意味よ」
「……おはよう、とかごきげんいかが? というような意味で」
「仲良いわね」
「誤解よ」
「そんなことねぇよ」
 私は手を上げた。
「ちょっとっ! 待て待て。なんでまた俺を叩こうとする?」
「じゃ、『そんなことねぇよ』はどういう意味よ?」
「仲良いわね、に対して、そんなことねぇ、と言う意味だ」
「ならいいわ」
 上げていた手を下げた。
「毎朝飽きないわね」
 マミが微笑みながらそう言う。
「コイツが余計なことするからね」
「仲がいいほどなんとやらってね」
「マミ、冗談でもそれやめて」
「ふふっ、わかったわ」
 マイクロバスは、唸りを上げながらいつもの調子でノロノロと走っていた。
「!」
 ミハルが立ち上がった。
 急に、サイレンが鳴った。