木場田が珍しく反応し、立ち上がって車を見るなり。
「覆面だ」
「フクメンってなんのことだ?」
 マヌケな佐津間がそう言った。
「フクメンって言ったら、この場合『覆面パトカー』に決まってるじゃん」
 私も後ろ向きに座り直して、すれ違った車を見た。
 見覚えのある車。
 獣の予感……
 あの覆面の運転手、もしかして。
 ガクン、とマイクロバスが速度を落とした。
「また止まんのか? いい加減にしろよジジイ」
 車内から声が上がった時にはバスは完全に停止していた。
 運転手のおじいさんは、また足を引きずりながらエンジンを見に出ていく。
 この百葉高校のマイクロバスだが、ウワサだと朝の便しかエンジントラブルが発生していない。しかも、私達のクラスの便だけが、狙ったかのように止まっているらしい。
 後ろの窓に向かってマミも向き直った。
「また〈転送者〉なのかな? キミコ見える?」
「さっきの警察の車は見えるけど」
「それは私にも見えるわ」
 ミハルが立ち上がって、マイクロバスの前方へ歩いていこうとする。
「どこいくのミハル!」
 声は全く届かない。
 私は立ち上がった。
「キ、キミコ、どうするの?」
「追いかけて、引き戻す」
「私も行く」
「マミは待ってて」
 マミは怖いはずなのに…… その言葉だけだとしても勇気のいることだ、と私は思った。
「大丈夫だから」
 マミはうなずいた。
 ミハルは何を考えて車外に出たのか。
 例のカチューシャに何か指令が入り、誘導されているのだろうか。
 私とマミが何度かここで〈転送者〉に出会っている。それにマイクロバスが止まる時は、決まって〈転送者〉が現れている。加えて、さっきの覆面はきっと鬼塚刑事が乗っている車だ。何か事件がなければこんなところへは来ない。
 つまり、外には〈転送者〉が出ている可能性が非常に高い。〈転送者〉は〈転送者〉を呼び込む。
「君、そっちに行くんじゃない!」
 エンジントラブルで外に出ていたおじいさんがマイクロバスの後方で叫んでいた。
「そっちに行ったんですか?」
「君も外にでるんじゃない」
「あの|娘(こ)を引き戻します。だから行った方を教えて下さい」
「あっちの方へ走って行った」
 手を向けた。
「エンジンを直ししだい発車するぞ、早くみつけるんじゃ」
「3分、3分だけまってください」
 スマフォのタイマーをセットした。
 おじいさんは腕時計をみるとうなずいた。
「気をつけろよ」
 私はうなずいた。
 切れ目のないガードレールを飛び越えて、人の住まなくなった住宅の並びへ入っていった。
 窓は壊され、扉は外されていた。
 〈転送者〉が現れたのか、〈転送者〉が怖くて人が破壊したのか、どちらの手によるものかはわからない。けれど、扉という扉、蓋という蓋ははずされ、壊されていた。
「ミハル! 返事して」
 返事は返ってこない。
 しかし、叫ばない訳にはいかない。ミハルだって死にたいわけじゃないはずだ。
「ミハル! いたら返事して」
 左右、上下に注意しながら先へ進む。
 一体この短時間にどこまで走っていってしまったのか。
「ミハル! バスに帰ろう」
 スマフォを確認すると、もう一分経っていることに驚く。
「後二分……」
 辺りは静かだ。
 人の住まない住宅地は、庭は雑草が生え放題で、何かが潜んでいるとすれば絶好の環境だ。
「ミハル! バスに帰って! ミハル!」
 どこにいるか分からない相手に向かって叫ぶ。
「公子?」
「どこ、ミハル、ミハル?」
 確かに声が聞こえた。
 こっちの家から返事が聞こえた。