慌てて、門を開いて、玄関へ向かう。
「ミハル? ミハルいるの?」
 ドアは外されてブロック塀に立てかけてある。
 私は土足のまま家に入る。
「公子、ちょっとまって。すぐ行くから」
「どういうこと?」
「分かるでしょ?」
「……」
 おトイレか。いい度胸をしている。私なら、この廃墟に入って用を足すなんて、怖くて出来ない。
「終わった?」
「待って! 紙が……」
「ハンカチ貸すから、ほら」
 なるべくミハルをみないようにしながら、手をのばす。
「ハンカチは流れないよね」
「流さないでよ。拭いたら返して」
「え? だってそれ、汚いよ」
「仕方ないでしょ、早くしないとバスが出るわよ」
 私はミハルを拭った部分を折り返してポケットにしまった。
 用を足した後のミハルのあそこを拭ったぐらいであって、したたるほどおしっこで濡れた訳ではない。洗えば綺麗になる。(もうハンカチとしては使いたくないが……)
「早く、早く行くよ?」
 ミハルの手を引き、来た道を走って戻る。走り続けられれば、まだ間に合うはず。
「きゃっ!」
「!」
 急に足に何が絡みついて、そのまま激しく地面にたたきつけられた。
 ミハルはつまずいたようによろめいたが、転びはしなかった。
「|公子(きみこ)大丈夫?」
 なんとか手をつけたが、腕が激しく痛い。
 身体を返すと、足に黒い触手が絡みついている。この黒のつながっている先に〈転送者〉が見える。
 ズルズルと身体が引きずられる。
「キミコ!」
「ミハルは早く先にバスに返って! 振り向かないで走って!」
 引きずられた背中が痛む。
 なんとか変われれば……
 足音はもう聞こえない。ミハルはバスへ走っていった。
 私は、そのまま背中の翼を広げた。
 制服がまくれ上がっているのが分かる。
 翼の力で、宙に浮くと同時に引っ張り返した。
 〈転送者〉が少し前のめりに体勢を崩した。
「いやぁっ!」
 反転して〈転送者〉に向かってスピードを上げる。
 伸びた触手を引く力も加わって、勢いがついている。
 インパクトの瞬間、私は足に力を込める。
 鳥の爪のように変質したそれが、首なしE体の〈転送者〉のコアを貫いた。
 黒い触手や手足胴を形作っていた物質が蒸発するように光を失っていく。
 私は着地し、翼をしまった。
 制服を正し、埃を払った。
 背中が擦れたように痛い。見ると、倒れた時についた腕も真っ赤になっている。
「どうしよう……」
 このままバスには戻れないだろう。足を振ってる内に逃げれた、と言い訳をすればいいのか。それとも……
「こっちにも出たのか」
「鬼塚刑事」
 そうだ、鬼塚刑事に頼もう。



 学校へ向かうバスが付き、クラスの皆は慌てて教室へ向かった。エンジントラブルの復旧に時間がかかり、ホームルームの時間が始まっていたからだ。
 私はマミに付き添われて保健室にいくことにしていた。
「木更津、白井、お前達教室に行かないのかよ」
 教室に行く階段のところで、佐津間がそう言った。
 マミが答えた。
「怪我の具合を見るからって、さっき話したじゃん」
「そうだったっけ。それより白井、あのデカイ男何者なんだよ。なんで抱っこされてんだよ」
「刑事さんよ。私を助けてくれたの」
「抱っこは必要なのかよ」
「なんでそんな事聞くの? 怪我をしたの。痛くて立てなかったのよ」
 マミが例によってニヤリと笑った。
「あなたも好きな女の子ぐらい助けれるようになりなさいよ」
「べ、別にそんなんじゃねぇし」
「マミ、早く行こう『そんなんじゃねぇ』らしいから」
「はいはい」
 佐津間とわかれて保健室の前の廊下を歩いている時、マミが言った。