とにかく、部屋までは面倒みないと……
 タクシーを走らせ、杏美ちゃんが告げた住所についた。
「ここで合ってる?」
 杏美ちゃんはうなずいた。
 タクシーの支払いをすませると、肩を貸してマンションへ入った。
 なんとか部屋の前について、亜美ちゃんが鍵を開けた。
「ふぅ…… もう大丈夫よね。私ここで……」
「まぁってください…… 先生っ」
 私の肩から滑るように体が落ちていった。
「危ない!」
 そのまま倒れたら杏美ちゃんが頭を床に打ちそうだった。
 私と杏美ちゃんは一緒に倒れ込んだ。
 杏美ちゃんの頭を支えた手が床に打ち付けられて、ひどく痛かった。
 オートロックの扉が閉まった音がした。
「先生、好きです」
「えっ?」
 杏美ちゃんが顔を寄せてきて、キスされた。
 柔らかくて、とても良い香りがする。
 合わせた体の温もりが、私の中のスイッチを入れた。
 杏美ちゃんから舌を入れてきた。拒む理由はなかった。
 自分の腕の中にいる子が、酒に酔った面倒な部下、ではなく、以前から気になっていた若い娘に変化していた。
 何も言わず二人は寝室に移動していた。
 一分一秒を争うように服を脱ぎ捨て、二人は裸で抱き合った。
 杏美ちゃんの体は、きめが細やかで吸い付くようだった。足をすり合わせようと、杏美ちゃんの太ももが私の股間に押し行ってきた時、その肌の感触だけでイキそうになった。
 私は杏美ちゃんの後ろに回り込み、背中にぴったりと体をくっつけた。そしてあぐらを組むように座ってから、私の足で杏美ちゃんの股を開いた。
 左手を下から持ち上げるように乳房に触れ、右手を杏美ちゃんの足の付け根あたりから、じっくりと撫でていった。
 杏美ちゃんは体をねじってキスを求めてきた。
 私はそれに応えようとしつつも、杏美ちゃんの背中から離れないよう、自分も体をひねっていた。
「あっ…… あっ」
 唇が離れる度、杏美ちゃんから吐息が漏れた。
 怖がっているのか、体から緊張が伝わってくる。
 けれど、その緊張と快感のギャップが、まるで痙攣しているかのような反応を示している。
 私もとても興奮していた。
 杏美ちゃんが跳ねるように体をビクつかせる度、そのお尻が私の股間に押し当てられたからだ。杏美ちゃんが動かないときは自分から腰を押し付けた。
 ふと、冷静に自分と杏美ちゃんの位置を考えた時、まるで杏美ちゃんをギターにして引いているように思えた。左手で弦を抑え、右手で掻き鳴らす。
 杏美ちゃんののけぞる間隔が短くなってきて、私も体をそらして背中をベッドにつけた。
「イク…… 先生…… 先生…… あっ……」
 一段と腹部の痙攣のような動きが早まり、自分の腰へも杏美ちゃんのお尻の振動が伝わってきた。奥へ指を入れられないのに、半ばイキかかってしまうのははじめてだった。
「杏美ちゃん、杏美ちゃん!」
 私も杏美ちゃんをせめながら、何度も何度も股間を押し付けていた。
 何度か小さい盛り上がりを終えると、杏美ちゃんが体をひねって向き合った。
 舌を絡めながら、ゆっくりとキスをすると、杏美ちゃんは私の体の上からおりて仰向けになり、目を閉じた。
「えっ?」
 思わず声を上げてしまった。
 あっという間に、杏美ちゃんは寝ていた。
 私は少し物足りなさを感じながら、上を一枚羽織り、ダイニングを探した。
 コップに水をくみ、床にある小さな照明で照らされている中、それを飲み干した。
 部屋の玄関の方へ、服やカバンが散乱しているのに気づき、私はそれを拾って回った。リビングのテーブルに二人の荷物や服をまとめて置くと、ゴトリ、と何かが落ちた重い音がした。
「杏美ちゃんの?」
 落ちたと思ったものはスマフォだった。手に取った瞬間、ブルブルとバイブレータが動いた。
「これ…… どういうこと」
 ディスプレイにメッセンジャーソフトの通知表示がされていた。
 私も知っている人物からだった。
 何も考えられなくなった。
 もう夜は遅く、電車では帰れなかったが、私は寝室に戻って服を身につけると、リビングに置いたバッグを持って部屋を出た。



 なんだろう。
 通知の人物が分かっただけではない。
 メッセージの内容も読んでしまった。
 偶然とはいえ、杏美ちゃんの個人情報を見てしまったのだ。私の方が悪い。
 見たことを忘れてしまえばよかった。しかし、知ってしまった事実を忘れることなんて出来なかった。そして、その事実を知れば、そのまま杏美ちゃんのベッドに戻って寝る気分にはなれなかった。