「こっちもかなり酷いわね。けれど、本当にアスファルトで擦ったのだとすると、もっと酷いはずだけど……」
「あの、先生」
「黙って」
 右手に手錠を付けられ、その反対側をベッドのパイプにつないだ。左手も同じようにつながった。
「これは何の真似なんで……」
 先生はポケットから電気カミソリサイズのものを取り出した。
「!」
「そう、騒いだらこれでおとなしくしてもらうから。痛い目に合わない為には、静かにしてることね」
 先生はそのままベッドに上がって、私のお尻の上に馬乗りになった。
「あなたの傷口は治るのが早すぎるのよ。いくらあなたが若くても、これはさっきの傷じゃない」
 指が背骨の上を通って、ブラの金具のところで止まり、そのまま金具をはずした。
「やっ……」
「さっきのきずじゃないって言っているの。答えはないの?」
「……」
「そう。じゃあ、やっぱりここも舐めてみるしかないのね」
「いやっ」
「コレが見えないの?」
 またさっきの電気カミソリのようなものーースタンガンをちらつかせた。
 先生は私の腰を足ではさみ、左手を胸のすぐ横についた。
 右の指が確認するかのように私の右の二の腕に触れ、そこから脇の下へ、そのまま胸へとなぞられた。
「(気持ちいいなら、声をだしてもいいのよ)」
「そ、そんなことあるわけ……」
 胸と胸の脇を指が行ったりきたりする度、『あっ』と声が出そうになる。
 スタンガンを持った手が、私の前に置かれ、先生の顔が上から近づいてくる。
 耳に息を吹き込むようにささやく。
「(あなたの体の秘密、わかっちゃった)」
 まさか、背中の傷のせいで、翼が……
「あっ」
 先生は耳を舌で舐めた。
 そこから、首筋を伝ってさがり、肩甲骨の後ろの傷跡を何度も舐めた。
「あっ、先生……」
「ここ、怪しいわよね」
「……」
「先生は、あなたが自分で説明して欲しいの」
「……」
 手を離して腕を組んで私を見下ろしていた。
 鋭い目つきだ。
 メガネの右端をつまんで持ち上げると、言った。
 舐めただけで私の何が分かるというのだ。背中の傷だって、早くかさぶたになったぐらいの話しで、そこに翼が出る切れ目が見えたりはしない。
 何しろレントゲン写真にも映らないのだ。
 だから、あの〈某システムダウン〉から変わってしまった私の体を、見抜いたいた医者はいなかった。
 だから、舐めただけでは分からないはずだ。
 私はそう確信して、口を開かなかった。
 これは|誘導(はったり)だ。
「話さないのなら、それでもいいけど」
 急に覆いかぶさってきて、私の顔を覗き込んだ。両手で胸をもみはじめた。
「(話してくれたら、協力出来るかもしれないけど、そうじゃないなら、あなたを脅すネタにさせてもらうわ)」
「あっ、あっ…… ん……」
「キミコ! どうしたの?」
 先生がマミに返事をする。
「大丈夫大丈夫。私が傷を舐めてみてるだけだから」
 先生は手を止め、ベッドを降りた。
「お友達に助けられたわね」
 順番に鍵をはずした。手首が赤くなってしまった。
「まあ、傷のことを言えば、あなたにとっては大したことはなかったみたいね。何も手当をする必要はないわ」
 私は背中に手を回してホックを止めてから上体を起こした。
 先生はブラウスと上着をとってくれた。
「はい! いいわよ」
 突然、しりきりを開け、先生はマミの方に歩み寄った。
「傷は大したことないみたい。ちょっと性格に難があるみたいだから、あなた、よく面倒みてやって」
 ポンポン、とマミの肩を叩いて、保健室の扉を開けた。
「服着替えたらそのまま出ていって構わないわよ。じゃ、これで」
 扉がしまって、廊下を早足に去っていった。
「キミコ、本当に大丈夫だったの?」
「ちょっとびっくりしたけど、別に何もされてないから」
 ……いや、ちょっと感じてしまったのだが。
「大体、傷口舐めるなんて保健室の先生にあるまじき行為だよね」
「唾液で菌が繁殖するよね」
 着替え終わって、ベッドを降りた。
「さあ、教室に戻ろう」