「そういう訳で、誰が入っているかしらんが、お前がここで待っているのはダメだ。寮に帰るとか、部活をするとか…… 白井は部活はやってなかったか。じゃ、教室に戻って勉強するとかしろ」
「……」
 歩かない私を佐藤は押した。
「ほらっ。ここはダメだと言っただろう?」
 とにかくここはダメだ。
 私は佐藤を職員室に返す為、廊下の曲がり角までゆっくりと歩くことにした。
 佐藤が職員室に入る音がした時、私は曲がりかどを曲がって、そこで立ち止まった。
 スマフォを確認して、マミの変装が終わったかを確認したが、まだ何もメッセージは入っていない。
 チラチラと廊下を確認しながら、その廊下の角で待っていた。
 二十分過ぎようか、と思った時、何か嫌な予感がした。
 職員室の前を通り過ぎて、面談室の扉を確認した。
「しまった」
 扉の表示が『使用中』から『空き』に変わっていた。
 ミハルとあの男性教師はどこから出た?
 それとも私が見落としていたのか。
 まさかミハルの赤黒いカチューシャに〈転送者〉のようなテクノロジーが備わっていて、どこか異空間に消え去ったのだろうか。
 もし教室で言っていたように佐津間と一緒なのだとしたら、佐津間を探した方が早い。
 私はスマフォで佐津間を見かけなかったか、メッセージで呼びかけた。
『どうしたの、キミコ。こっちはやっと変装終わった』
 マミから直接メッセージが来た。
『ミハルを見失った…… つけてるのバレてたかも』
『佐津間の居場所とか言ってるから変だと思ったけど』
『ミハルの居場所とは書けなかったよ』
『それはいいんだけど。そう。見失ったの……』
 私はなんと返してよいか詰まってしまった。
 ポン、と肩を叩かれた。
「えっ?」
 赤と青、星条旗のような色合いの服に、金髪の髪。これはまるでスーパーガー○だ。目立ち過ぎないだろうか。
「とりあえず写真撮る!」
 私はスマフォで写真を撮った。
 写真を撮り終わるなり、マミは廊下を走り出した。
「マミ?」
 マミは上のフロアを指差した。
「私が追うから! キミコは何も考えずに上で変装して来て」
「わかった!」
「なんとか探すから」
 マミの笑顔で救われた。
 私は急いで演劇部の部室に入り、地味な路線にすることにした。すこしシワのようにラインをいれ、くすんだ肌色を重ねた。
 服装も鮮やかではない紫や茶色、ベージュを重ねて来た。ツインテールが不自然だが、前髪はあげているので、注意してみなければツインテールには感じないだろう。見るからにお婆さんに変わった。
 部室を出る時に、スマフォをチェックすると、どうやら前日と同じように街に向かったようだった。まだミハルは見つかっていないが、佐津間を見つけて追跡しているらしい。
 私も学校を出ると、いそいで街に向かった。
 佐津間が繁華街の方へ向かったと、メッセージが流れてきた。
 移動しつづけている為、マミにも追いつけない。佐津間とミハルは一体どこで待ち合わせなのだろう。
『佐津間が止まった。あっ、ヤバイ……』
 どうしたのだろう。
 私は歩いてマミの位置情報を頼りに歩きながら、何度もメッセージを確認するが、それ以降のメッセージが来ない。
 佐津間に見つかりそうになったとすれば、しばらくスマフォを触れないかもしれない。
 佐津間が動き出したのだとしたら、位置情報が動いてもいいはずだが、マミの動きは止まっている。
『マミ、そこに行ってもいいの?』
 返事がない。
 マミの身に危険が及ばないよう、慎重にその位置に近づくことにした。
 身軽な動きをしてしまうと、変装がバレてしまう。じっくり、ゆっくりと周りを見回し、一歩一歩確かめるように歩く。
 老眼のように、スマフォを見るにも近くしたり離したりしながら確認する。
 もうマミの位置とは一直線で何も障害物はないはずだった。しかし、視線の先には人がいない。いないというのはウソになるが、あの赤と青のスーパーガー○のような服が見あたらない。
「どうしたんだろう……」
 ゆっくり歩きながら、さらに周りを見回す。
 情報通りなら佐津間がいるはずなのに、佐津間も見つからない。メッセージにはなかったが、木場田も、鶴田も、ミハル本人も見つからない。
 位置情報のズレがあるのだろうか。
 それしか考えられない。とにかく、この周囲であることは間違いないのだ。スマフォの地図をみながら、あっちこっちをしらみつぶしに歩いて回った。