視線はどこか虚ろな感じで、どこをみているわけでもなさそうだった。
「うちの孫見なかったかね?」
「ばあさん?」
「赤青の服着た」
「知らねぇ。来てねぇよ」
「そうかい。じゃ、ここへいてもしかたないねぇ」
 私は踵を返した。
「俺の言うことを信じるのかい?」
「時間がないんじゃ、悪いのぉ」
 そう言うと、私はひとつ飛ばしで階段を上がった。
「……」
 同じ通りのもう一件の店もクラブだったが、扉が開けると中はまだ清掃の業者が掃除をしていた。支配人もまだこないから出ていってくれと言われてそのまま出てきた。
 怪しいかもしれないが、清掃の作業はまねごとには思えなかった。
 通りを一本超えて、FOXという赤い看板を探した。
 ほどなくその看板を見つけることが出来た。
 赤い看板に黒い字でFOX。
 形も何も違うのだが、色の感じが、どことなくミハルのカチューシャを連想させた。
 何の店かは表からは分からず、とにかく階段を下りていった。ここも携帯の電波は届かない。
 店のドアにも何の店かは書いていない。
 どうしたものか悩んでいると、中から店員が出てきた。
 赤いチョッキに黒いネクタイ。赤黒の目の細かいチェックのスラックス。
 私を見つけると、店員は目を細めてこっちをみた。
「お客様…… どうぞ」
 中は真っ暗で何も見えなかった。
 仕切りにカーテンが何重にもあるようで、そこを抜けると小さな灯りで照らされている部屋についた。
「お一人様ですか?」
 灯りに照らされ、手が見えないように手を後ろに組んで隠した。
「そうじゃよ」
 店員は仕切りの向こう側に声をかけていた。
 小さくその声が聞こえる。
「(こちら様もお一人とのことですが……)」
 店員はしばらく仕切りの向こうにいたが、一人出ててきた。
「このお客様が、あなたとご一緒したい、とのことですがどうなさいますか?」
 小さいスマフォのようなものを見せた。
 そこには若い女性が映っていた。
 赤黒のカチューシャ。
 暗いし、かなり画素が荒くてはっきりとはわからないが、おそらく……
「あっ、ああ、大丈夫じゃよ」
「それではご案内します」
「(へっ? いきなり? それだけ?)」
 薄暗い店内にはスローな雰囲気のある曲がかかっていたが、それよりボックス上に座席が仕切られていて、寝台列車の廊下のようだった。
 何をしているのか、ボックス席を下から覗き込むよう屈むと、即座に店員に肩を掴まれた。
「お客様。他の座席は覗かないでくださいね」
「ああ、ああ、わかりましたよ」
 そこを進んでいくと、店員が立ち止まった。
「こちらです。ごゆっくり」
 椅子の前にも少しカーテンが下がっていて、席の中は直接見えないようになっている。
 頭を下げてカーテンをくぐって中に入ると、そこには赤黒のカチューシャをした若い女性…… いや、はっきりミハルと分かる、私服の女性が座っていた。
 私服は、かなり短いスカートで、太ももがあらわになっている。上着の袖はなく、胸元も大胆にV字にカットされている。
 よ…… よだれが。
 そうではない。
 私の変装がバレているか、バレていないかだった。
 バレていないなら、バレないように声や顔をなるべく出さないで意思疎通しなければならない。
「おばあちゃん、ここどういう店か知ってる?」
 私は首を横にふる。
「あのね、好き合っている者が、いちゃいちゃするところだよ」
 えっ、確かに、妙に席と席が見えないようにしてあるとは思ったが。
「よーく聞いてみて」
 確かに音楽の音量が小さくなる瞬間に、喘ぎ声が聞こえてきた。
 やばい…… 本当にヤバいやつだ。
「知らなかったのね」
 ミハルは私の横に座り直してきた。
「座ってても料金掛かるけど…… どうする?」
 どう意味にとったら良いのだろう。
 本当に座っているだけで料金かかるから出ませんか、という意味か、それとも『私とエッチなことしないんですか?』という意味だろうか。