私は気になってたずねた。
「カードを落とした時はどうすればいいんですか?」
「管理用のサイトにアクセスして当該のカードを使用停止にすればいいんです」
「管理用のサイトって、まさかインターネット上?」
 業者はシステム構成図を見せながらいった。
「研究棟の中に置く予定です。インターネット側からの口は作らない、と聞いています」
「わかりました。所長、なくしたら使用停止にしますから」
「……まず、なくさないわよ。今のカードだって無くしたことないんだから」
 業者がうなずいた。
「まあ、いいわ。じゃ、この計画で行きましょう」
 私はうなずくしかなかった。
 所長は業者と水晶の研究棟を見て回るから、一緒に来ないか、と言った。私もこのまま研究室にもどってやることもなかったので、ついていくことにした。
 内装はまだまだこれからとのことだった。
 全員でヘルメットを被り、内装工事しているところを右に左に避けながら進んだ。
 扉がついているところもあったが、まだ実際に設置されていないところもあり、業者はポイントで立ち止まって図面に何か書き込んでいた。
 私は私で図面を見ているのに自分の居場所がわからなくなっていた。
「所長、なんでこんなに複雑な構造なんですか?」
「別に複雑じゃないでしょ? 工事しているから見通せてないだけよ」
「図面をみていると、完成したら、この状態より複雑になりそうじゃないですか」
「実際に歩いて覚えればいいのよ。私はもう何周もしたから図面見なくてもあるけるわよ」
 私は自分の実験室まで行ければ、とりあえずそれで用は足りる。それ以上のことは後で覚えようと思って諦めた。
 この規模の研究棟をつくるということは、いままでの研究棟からほとんどの研究室をこちらに移転させるつもりだ。
 古い棟はいずれ別の用途の建物にするのだろう。
「!」
 何か、後ろに気配を感じた。
「どうしたの? 行くわよ」
 怖くて振り返れない。何か先の鋭いものが背中たに突き立てられている。
「私の後ろに誰か居ますか?」
「居ないわよ?」
 私は一歩前に踏み出した。すると、その気配が急になくなった。慌てて振り返るが、所長が言った通り、そこには誰もいなかった。
「システムを入れる箇所を一通り回るから、急ぐわよ」
 所長の早足に、業者の人もついていくのが大変そうだった。
 私は半ば走りながら、ついていった。
 曲がり角にくる度に後ろを振り返るが、やはり誰もいなかった。
「ここが坂井先生の研究室ね」
「だいぶ上のフロアですね」
「上にあるだけじゃないわ。かなり中心部にあるのよ」
 タブレットで確認した。
「えっと、ここに来るまで何回カード操作しなきゃいけないですか?」
 業者の人は即答した。
「七回です」
「な、七回?」
「何驚いているの?」
「研究室に入るのに七回もカード操作なんて……」
 私は思い出した。開いているからと言って操作をしないで入ると閉じ込められるのだ。
「念の為聞きますが、途中でカード操作を飛ばしたらどうなるんですか?」
「たとえば、ここで操作わすれたら、この色が変わったエリアに閉じ込められます」
「……」
 真剣にそのエリアを追ったが、何もない。抜け道がないのだ、誰かに合わないかぎり変な空間で閉じ込められてしまうのだ。
「大丈夫です。これも管理用のサイトで復旧することができます」
「けど、こんなところにはパソコンは…… もしかして、タブレットからも?」
「もちろんです」
 いや、逆に普段はタブレットを持ち歩かないから、その時はアウト、ということだ。
 まだ何も汚れていない真っ白で綺麗な廊下が、私にとっては牢獄の壁のように見えてきた。
「事務の方に電話して復旧してもいいですから」
「そもそもカード操作をわすれなければいいのよ。開いているからって、飛び込まないの」
 所長が当たり前のことを言った。
 しかし、当たり前のことがなかなか出来ないのが人間だ。私は特にそういう傾向がある。
「……」
「じゃあ、先に来ましょう」
 中島所長は建物内の残りのエリアを案内して回った。私もついてあるいた。何がどこに取り付けられるとか、そういう情報はよく分かっていなかった。
「一応、主装置をつけるところはここでお願いします」
 既にサーバラックが幾つか立っている。