「ここはサーバールームじゃないんですか?」
「そうよ」
 業者もうなずいた。
「え? カード装置の主装置ってなんですか?」
「サーバーパソコンになります」
「パソコン? そんなので……」
「大丈夫、ここは電源バックアップもされている。それこそカードでサーバーラックも制限してるのよ?」
「カード操作しないとサーバーラック開かないんですか?」
 業者と所長がうなずく。
 端のサーバーラックのところにくると業者が指差した。
「ここにカードリーダー装置をならべて、それぞれの許可されたカードが操作されたら、それに相当する場所のラックの鍵が開きます」
「なるほど」
 確かにここまで入ってしまえばやり放題になってしまう。ここでも時間稼ぐための防衛手段が必要だ。これだけしっかりしたラックを壊して操作しようというのは相当時間が掛かる。
「私はサーバーラック開けられますか?」
 タブレットを見ながら、自分の権限をみていたが、どこがこのサーバーラックについてなのかが分からなかった。
「えっと、坂井先生は、開けられますね。何個か権限がありますよ」
「このシステムのラックも開けられます?」
「開けたいなら、私にいいなさい。権限つけとくわ」
 所長がムッとして言った。
「あっ、お、お願いします」
「ということなので、お願いね」
「はい、承知しました」
 そう言いながら、業者は何かメモをとっていた。
 エレベータが作業で専有され、殆どこなかった。
 この棟を殆ど塗りつぶすように歩き回って疲れのせいか気分が悪くなっていた。
「所長、みなさん、私はここで」
 工事中の研究棟を出るなり、私はそう言うと、軽く会釈して構内の自動販売機で水を買い、ベンチに腰掛けた。
 ペットボトルを開けようとした瞬間、また背後に気配を感じた。
「!」
 何か鋭いものが首筋に突き立てられているような感覚。
 またあの甲冑男の幻覚か『読め』『読むな』の続きだろうか。幻覚ではないか、と疑いつつも、ベンチの背もたれに背中をつけるような行動はとれなかった。
 万一、幻覚ではなく本物なら、串刺しになって死んでしまう。
 私は恐る恐る後ろを振り返った。
『幻覚ではない』
 そう言うと甲冑の男は、私の首をつついていたと思われる長槍を、まっすぐ上向きに持ち替えた。
「なんなの? 何がしたくて私につきまとうの」
 こんなことを一人で話しているのを、誰かに見られたら気が狂ったと思われてしまうだろう。タクシーの時と同じだ。きっと私以外にはこの人の姿は見えない。
『私は女王の命令により貴殿を守っているだけだ』
「守っている? 私は病気なのよ? ほっておいても死ぬわ」
『……』
 表情を変えない甲冑の男に、私の中で何かが弾けた。
「守っているとか言って、私を|囮(おとり)にして馬に乗っていた男を倒そうと思っているんじゃないの?」
『違う』
「私の命なんて関係ないんでしょ? じゃあなんで私を刺そうとしたの?」
『あれは貴殿の意識下に、こちらの存在を感じてもらう為の方法にすぎない。脅したように感じるのなら、謝罪する』
 頭を下げた。同時に、ヘルメットの目隠しが下がった。
『くるぞ。私が相手をするから、貴殿は動かないでいい』
「死にたくなかったら動くけど」
『どうせ病気で死ぬ、というのであれば、度胸を決めてここを動くな』
 甲冑の男は姿を消した。
 研究所の中庭とは思えないほど、木々の葉が生い茂り、辺りに暗い影を落としていた。
 じっと見回すが、研究棟らしきものが見えなくなっていた。
「まさか……」
 慌ててスマフォの地図で確認すると、一面が緑で表されていた。
「どういうこと?」
 地図の縮小をどんどんかけていくと、研究所の住所とは全く違った。いわゆる別荘地と呼ばれる地域の地図だった。
 自分が座っていたベンチもよく見ると古めかしい装飾が付けられている。
 どこかの大金持ちの別荘の庭? だろうか。
 馬のいななく声が聞こえた。
「来た……」
 音ではどこに馬がいるのか全く判断がつかなかった。
 さっきまでと違い、少し寒い。