ミハル…… あなたひょっとしてここで稼いでいたの?
 私は声を出して尋ねるしかない、と思った。
「お嬢ちゃん、あんたまさかここで働いているの?」
「違うよ」
「じゃあ……」
「あ、同性愛でもないから」
「どういうことなんだい?」
「人を探している…… の。あれ?」
 ミハルが近寄ってきた。
 じっと私の顔をみている。私は光が当たらないように少し反対を向いた。
「キミコ?」
「……」
「変装しているのね。そういえば、昨日も」
 バレたか。
「そうよ。ミハルこそこんなところで何をしてるの?」
「人を探しているって言った」
「誰?」
「キミコは何をしているの? 私を尾行しているの?」
「違う。マミを探してる」
「えっ…… 私もマミを見かけたからここへ」
「そんな!」
 私はこの変な店のボックス席でミハルが目撃した内容を聞いた。男にフラフラと手を引かれながらマミがあるいているのを見て、佐津間らと別れて追ってきたのだという。
「何か薬物か、お酒かしらないけど。とにかくフラフラしていた」
「そんな。マミはそんなことしないよ」
「しかも赤青の派手な服装だよ」
「……」
 それはあなたをつける為、とは言えなかった。
「とにかく、この中にいるなら探そう」
「うん」
 しかし、通路にはさっきの赤黒い服の店員がしきりに歩いている。よそのボックスを覗くようなことをすればつまみ出されそうだ。
「ミハル、けど。どうやって他のボックスを見る?」
「ここを辿って」
 ミハルはボックスの仕切りを通っている梁を指さした。
「へ?」
「ぶら下がるなり、上を歩くなり」
 ボックスの上をつたって移動するというわけだった。
「真面目に言ってる?」
「他にアイディアあるの?」
 他にアイディア、と言われてても…… 何も考えてない。考えていたとしても、それしかなさそうだった。
「やるしかないでしょ?」
 私はうなずいた。
 店員に見つかったらまずい。
 見つからないためには通路を使わずに見て回るのが良さそうだ。
「どっかあたりはついてる?」
 ミハルは首を振った。
「どっちから行く?」
 ミハルは指をさした。
「じゃ、私は反対側で…… 良いわね?」
 コクリとうなずく。
 私は椅子の背もたれに足を掛けて、カーテンやボックスの壁を支えている梁に手をかけた。
 振り返ると、ミハルはもう梁の上に乗って、進んでいた。上り棒を登るときのように、足を開いて梁を挟んでいるせいで、ミハルの下着がもろに見えていた。
「お客様? ご注文はお決まりですか?」
 下から声がした。
 今カーテンを開けられるとまずい。
 私はいそいで椅子に戻り、返事をした。
「なんじゃね?」
 少しカーテンから顔を出してみせた。
「ドリンクの注文をお願いします」
「いらんがね」
「待合室にも書いてあったと思いますが、必ず頼んでもらうことになっていますんで」
「……」
 ミハルはこのことは知っていたのだろうか?
 私はもう一度顔を出して言った。
「何があるかの?」
「中にメニューがあるはず……」
 店員が中を覗こうとしたので、私は慌てて言った。
「おう、あったあった。何も言わんで覗こうというのは失礼じゃろが」