とにかく壁沿いのヤブをわけて進み、必死に出口を探した。
「どこだ、クソッ」
 私を探しているのか、見えない甲冑の男を探しているのかは分からなかった。
 ただ、自分が奥へと進む度に声が小さくなっているのは確かだった。
 足止めしてくれているのだ。
 ということは…… 幻聴や幻影ではないのだろうか?
 今の事実からするとそれしかない。
 けれど、タクシーは壊れてはいなかった。それはどう説明する?
「あった!」
 壁沿いに木製の扉があるのを見つけた。
 あそこから出れるに違いない。
 扉はかんぬきで閉じられていた。それを外す以外に出る方法はなかった。
 持ち上げてはずそうとするが、かんぬきになる横木が腐っているのか扉が悪いのか、がっちり擦れ合ってビクとも動かない。
「誰か……」
 こんなところに助けがくるわけもない。
 さっきの甲冑の男が助けにきたとして、その時は猟銃男もセットでやってくるだろう。
 門のサイドに背中をあずけ、かんぬきを足でおした。
『ズル……』
 もしかしたら、これでなんとかなるかも。
 私は片足だけでなく、両足をかんぬきにかけて蹴った。
「きゃっ」
 かんぬきがはずれ、私はそのまま門の床に落ちてしまった。
『ダンッ!』
 奥で大きな音がした。
 音の響きが違う。おそらく、さっきのように地面に散弾を打ち込んだのではなく、どこか狙ったところに飛んだような思える。
「まさか……」
 まさか甲冑の男が撃たれた?
 とにかくこの隙に私は逃げよう。逃げるチャンスは今しかない。
 打った背中の痛みを我慢して立ち上がると、重い門を押し開けた。
 門は通りより少し高いところにあり、急いで逃げようとして階段で転んでしまった。
 そのまま通りに転がり落ちると、体は泥だらけになっていた。
「!」
 タクシーを呼び止めようと、手を上げた。しかし、タクシーは一切減速せずに通り過ぎた。それだけではなく、道の泥を私に向かって跳ね上げた。
「こんな汚いのに載せてくれる訳無いか……」
 おそらく、タクシーはこの汚れた服をみて無視したのだ。
 研究棟ならシャワーも着替えもあったはずだ。
 私はタクシーで直接家に帰ることを諦め、研究棟へ走った。



「先生」
 体がしびれたように動かない。
「坂井先生」
 杏美ちゃんの声だった。
 またいつの間にか、あの|娘(こ)の体を求めてしまったのだろうか。
「坂井先生、そんなところで寝てると風邪ひきますよ」
 体が動かないのは、椅子を並べてその上で寝ていたせいらしい。
 上体を起こすと、テーブルの反対側に杏美ちゃんが立っていた。
「警備を入れて帰ろうと思ってたんですが、先生はどうなさいますか?」
「……」
「寝ぼけてます?」
「警備は私がセットして帰るわ、杏美ちゃんは先に帰って」
 亜美ちゃんが並べた椅子を回って近づいてくる。
「先生、お先に」
 顔を覗き込むようにしたかと思うと、軽い感じでキスされた。
「杏美ちゃん……」
 軽い笑顔で手を振って、そのまま部屋を出ていった。
 本人の気持ちではなく、こんなことを強要されているのか、と考えると、可哀想でならない。
 あの日私がスマフォの画面を見たことはバレていないということだ。
 亜美ちゃんがいなくなるのを確認して、警備の為に窓や扉を確認して回った。
 警備機械を操作して、カードを当てた。
「警戒を開始します」
 機械が音声を出した。
 部屋を出ようとして開けると、
「警戒を解除します」
 と聞こえた。
「?」
 操作を間違えたか、と思い、警備機械を操作して、廊下に出る扉を開けると、また『警戒を解除します』と聞こえてくる。
 おかしい。