テーブルに体を打ち付けてしまう。
 そこをミハルが空いた片手でマミの頭からカチューシャを奪った。
 マミは眠るようにまぶたを閉じた。
「分かりました、分かりました。会計しますから、お二人ともこちらへ」
「さっさと行けよ、デカイだけ男」
「蹴ることないだろうが」
「蹴り返すことねぇだろうが」
「お客様! 落ち着いてください」
 外は外で、まだ、なんとか時間を稼いでくれている。
「こっちのカチューシャも取れる?」
「どういうこと?」
「敵のカチューシャを頭から取って、ってこと」
 テーブルで打ったお腹を抑えながら、立ち上がり、赤黒のカチューシャに手を伸ばす。
 バチン、と手を払われた。
「痛っ……」
「それは私」
「?」
「マミのカチューシャを持っているでしょう?」
「!」
 そうか、こっちがミハルであっちがミハルのそっくりさん。
「あっ!」
 手を払われ、持っていたカチューシャが舞う。
 私は思わずそれを手に取る。
「それを返して」
「渡しちゃダメよ、こっちに頂戴」
 二人のミハルがカチューシャに手を伸ばしてくる。
「どっちがミハル?」
「私よ」
「こっちが私」
 最初から双子と思って接していた訳ではない。そもそもミハルの特徴はボブヘアと赤黒のカチューシャ、と思っていた。
 突然、それが二人になり、完全に見失ってしまったのだ。
 どうやって見分ければいいのかなすすべがなかった。
「どっちがいつものミハル?」
「私よ」
「私」
 少し考えて、こっちが知っているミハルしか知らない問いを出せばいい、と思った。
「じゃあ、朝のバスで私達が座る場所は?」
「バカね、そんなの先に答えたやつの真似をして答えればいいだけじゃない」
「そんなことないわ」
「先に答えた方がウソをつくからよ」
 二人のミハルの言葉に惑わされてしまった。
「先に答えた方が本物なら、ニセモノはウソだと分からないから真似して先に答えたのと同じことを言う。つまり、間違え、間違え、なら後に答えたヤツがニセモノでしょ」
「じゃあ、正解、正解、なら?」
「後に答えた方がニセモノ」
「間違え、正解なら?」
「先に答えた方がニセモノでしょ。正解、間違えの順なら、後で答えた方がニセモノ」
「ヤマカンであてたら?」
「そんな問題だしたら意味ないでしょ?」
 これで本当に考えを尽くしているのだろうか。
「一方に答えが聞こえないようにすればいいのよ」
 何か、それがあたかも正しいかのように私は言った。
「答えを私に耳打ちしてもらって、相手に聞こえないようにすればいいのよ。それなら単純に、正解したものが本物」
「それは危険よ!」
「じゃ、問題を出すわ。私のフルネームを答えて」
 私は耳に手を当てて顔を寄せた。
「危ない!」
 近づいたミハルは、急にナイフを突きつけてきた。
「だから言ったじゃない!」
「判ってたわ」
 ナイフを持つ手を左で抑え、耳に付けていた腕で、胸を肘打ちした。
 ミハルのそっくりさんは、声にならない息を漏らしてナイフを手放した。
「ミハル、ありがと」
 ミハルが私のことを思ってくれていなかったら、助からなかった。耳打ちさせる案をすぐさま否定したミハルを見て、こっちが本物と思ったのだ。
「カチューシャを奪って!」
 ミハルのそっくりさんは、体をよじって抵抗しかけたが、私の手が早くカチューシャにかかった。
「ううっ……」