カチューシャを取り上げると、まぶたが閉じ、机に突っ伏すようにして気を失った。
「一体、このカチューシャはなんなの?」
「……」
「それに、マミも起きてこないよ」
「……」
「ミハル。このカチューシャの件で何か知っていることがあったら教えて?」
「……わからない」
「高いよ、まけてよ」
 遠くから木場田の声がした。私は急に今の状態がまずいことに気がついた。
「とりあえず、店を出よう。支払いもそうだけど、同じボックスに四人いるのがバレたらまずい」
 私はミハルのニセモノを担ぎ、ミハルがマミを担いで店を出ることにした。
 ボックスをでるところさえ見られなければ、見かけは同じだから、組み合わせが違っているとは思うまい。
 会計の最中も、ずっとぐったり寝ているせいで、店員に不審な目で見られたが、金を払うと、にっこりと微笑み返された。
「ありがとうございます。次回のご利用をお待ちしております」
 外に出ると、雨はあがっていた。
 傘、どうしよう。返すにもどこにいるか分からなかったし、親切を受けた自分は偽者だ。それが相手にばれたら、どう思うのだろう。そのまま持って帰るしかなかった。
 向かい側の店の前で、木場田と鶴田が待っていた。
 背の高い木場田はマミを、低い方の鶴田はミハルのそっくりさんの方を手伝った。
 直接寮に帰るのではなく、学校に帰って、シャトルバスで帰ることにした。
 そうすれば寮の建物の近くまで木場田と鶴田が手伝えるからだった。それに、私とマミは普通の格好ではない。メイクも衣装も制服に着替えないと、寮には戻れない。
「けど、この子を寮に入れちゃって大丈夫なのか?」
「そうだ。それこそ誘拐にならないか?」
「この|娘(こ)が先にマミを誘拐しようとしたのよ。そこらへんはなんとかするから、手伝って」
 私はなんの根拠もなかったが、そう言って手伝わせた。そういうことは後で考えるしかない。マミが目覚めないのも変だ。何かこのミハルのそっくりさんがその秘密を握っているに違いない。ここで解放するわけにはいかないのだ。
「わかったよ」



 マイクロバスが女子寮につくと、私とミハルはそれぞれ気を失ったミハルのそっくりさんとマミを背負っておりた。
「だ、大丈夫か?」
 フラフラする二人を見てか、心配そうに木場田が言う。
「大丈夫よ。そこまでなんだから」
「気をつけろよ」
「ありがとう…… 木場田」
 車内に戻りかけたところを呼び止めた。
「なんだ?」
「佐津間はどうしたの?」
「えっ? あれ? 忘れてた」
 木場田は慌ててバスに乗り込んだ。
 そして答えがないまま、マイクロバスは男子寮へと出発した。
 バスの窓から何か言っているようだったが、エンジン音がうるさくて聞こえなかった。
 私とミハルは寮の玄関まで二人を運んだ。そしてミハルのそっくりさんの方にフード付きのスエットを着せた。マミは玄関先に座らせておき、まずはミハルのそっくりさんを部屋に運び入れた。
 それから戻って二人でマミの手足を持って運んだ。
「ふぅ〜 疲れた。何か飲み物持ってこようか?」
「キミコ、カチューシャ持ってる?」
 私はカバンをガサガサ探し、取り出して見せた。
「ほら。あるよ、二つとも」
「カバンにいれておくんじゃなくて、取られないように身につけてて」
「だって、気を失って」
「言うことを聞いて」
 何か緊迫した雰囲気に、私はゆっくりうなずいた。
 室内でも身につけていておかしくない、肩掛け紐のついたポーチに入れた。
「寝るときもよ?」
「……寝る時は良くない?」
「せめて枕元とか。分かるところに」
 こんなカチューシャがそんなに重要なのか。
 ミハルはやはり、このカチューシャが何かを知っているハズだ。
 そうでなければこんな指示を……
 私は重要なことを思い出した。
「何がいい?」
「……なんのこと?」
「飲み物だよ」
 ミハルは肩を落とし、軽く息を吐いてから言った。
「なんでもいい」



 私は食堂に行ってお盆にジュースの入ったコップを四つのせ、部屋に戻った。
 マミも、ミハルのそっくりさんもまだ目を開かない。私は、ミハルに聞きたいことがあった。