「ミハル、あのボックス席の上で私の上に乗っかってきたのは、なんだったの?」
 ミハルはストローでジュースを一口吸い上げると、目を閉じた。
「あれは……」
「あれは?」
「マミの嫌がることをしたのよ」
「マミが嫌がることだったの?」
「そこがポイントだったの」
「どういう意味?」
 ミハルはまたストローをくわえて黙ってしまった。
 確かに、あの直後、マミが人とは思えない声をだして、こちらに向かってきた。
 ミハルのそっくりさんのコントロールを抜け出し、自分の意思が働いた、ということなのだろう。
 ミハルはそこを引き出す為に、私の肌を舐めはじめた訳だ。
 ミハルの唇を見ていたら、そのことを思い出してしまった。
 ミハルはジュースを置くと言った。
「もしかして、感じた?」
「なっ、なに言ってんの!」
「マミが居ない時に続きをしてあげる」
「だからっ、何にも感じてないからっ」
 ミハルは口に指を当てて、黙れと仕草した。
 どうやらミハルのそっくりさんが目覚めようとしているのだ。
「手足縛る?」
「……」
 何も返事がなかったが、立ち上がれないよう、両足をタオルで縛っておくことにした。
「!」
「気がついた?」
「……」
 ミハルのそっくりさんは、何故ここにいるのか分からなくて呆然としているようだった。
「私を憶えてる?」
 上体を起こそうとして、足が縛られていることに気がついた。
 すぐにタオルを外そうと手をかけた。
「やめなさい」
 ミハルのそっくりさんは手を止めてミハルを睨んだ。
 そしてまたタオルをはずそうとすると、ミハルがその手を叩いた。
「やめなさい」
「あんた、だれ?」
「先に名乗りなさい」
「あ、ごめんね。私は|白井(しらい)」
 ミハルのそっくりさんのベッドに腰掛け、そう話しかけた。
「あんたには聞いてない」
「でも判ったでしょ? あなたは誰?」
「……チアキ」
 私は微笑み返した。
「チアキ、ね。よろしく」
 右側にチアキがいるせいで、私は左手を差し出した。
「?」
「握手しよ?」
「何故?」
「今日からお友達だから」
「左手で?」
 左手の握手に何か深い意味があるのか知らなかった。ただ、チアキが左手を出すには苦しい位置にいることはわかった。
「じゃあ」
 私は立ち上がって、右手を差し出した。
 チアキは軽く、指先を握って一度振って離した。
「よかった。握手できて」
「面倒くさい人ね」
「面倒くさいところがいいところよ」
 ミハルがそういった。
「で、あんたは?」
「……ミハル」
「ミハル? ミハル…… もしかして」
 チアキは何か考えたようにあごに手をやった。
「近くで顔を見せて」
 ミハルは表情を変えなかったが、チアキに近づいていった。
「もっと近くで」
 手の届くところまで近づくと、チアキは急に手を上げた。
 パチン、と肌がぶつかる音がした。
 どうやら、チアキがミハルのカチューシャを外そうと手を頭へ向けたようだった。
 また、パチン、すこしあけてバチンとまた音がした。右手も左手も使って、なんとか外そうとするが、ミハルはまるでカンフーの達人のようにその手を止めてしまう。