「適当に空気って言えば伝わるとか、お前の勝手な思い込み……」
 私は佐津間の顔を叩きに行っていた。
「イテテテ……」
「(ご、ごめん)」
 私は小声で謝った。佐津間は苦笑いしていた。
「何? アンたら出来てんの?」
 チアキが言った。
「面倒くさいモノ同士、お似合いね」
 また意図せずこのアホ男と絡んでしまって、こんな茶化されかたをしてしまった。
「しかたないよ」
 マミが肩に手を回して慰めてくれた。
 クラスのみんなが座り終わると、バスは走り出した。



 ミハルがバスの後ろを睨んだ。
 また〈転送者〉かと思って私も同じ方を見るが、何もいなかった。
 チアキがたずねた。
「何やってるの?」
「別に」
 そう言うと、ミハルは正面に座り直した。
「あなたには何か見える?」
 チアキにもミハルのような〈転送者〉を予見するような力があるのかと思ったからだ。
 チアキが後ろ向きに座って何か眺めはじめた。
「……どお?」
「何も見えない。退屈な風景ね」
 チアキも前を向いて座り直した。
 バスの轟音だけが響いていた。
 何事も起こらなかった。エンジンのトラブルさえなかった。
「奇跡だよ。はじめてなんじゃない?」
 マミは何も起こらずに予定通り学校について、感動していた。
 学校の時計を見て私もうなずいた。
「これなら授業前に保健室行けるかもね?」
「チアキ、ミハル、ちょっといいかな。保健室ちょっとよって行こう」
「……」
「いいけど。私はどこも悪くないわよ?」
 教室に向かわず、校舎に入るとそのまま保健室を目指した。
 職員も生徒もあまり通らない廊下は、空気がなにか淀んでいる気がする。
「あ、良かった。先生いるみたい」
 マミがドアの札をみてそう言った。
「おはようございます」
 保健室に入っていくと、先生がのびをした。
「朝っぱらからこの人数って何事よ?」
 白衣の襟元からピンクの下着が見えている。以前来たときも気になっていたのだが、露出度の高い服ではなく、もしかすると、下着に直接白衣を羽織っているのだろうか?
「君は先生の体に興味津々なのね? 私もあなたの体には興味あるけど?」
「そ、そんなことありません。それと、今日は、私じゃなくて」
 体を引いてミハルとチアキを押し出した。
「この二人のことを」
「どうしたの? 怪我とか病気とかじゃないみたいだけど」
「先生、以前DNAが分かるって」
 マミは椅子に座ってそう言った。
「だからこの二人のDNAを」
「ああ…… なるほどね」
「双子か、他人の空似かって…… そういうこと?」
 チアキが何も話さない。少し不思議な感じがした。
「あなた達が知りたいのはわかるけど、本人達はどう思ってるの?」
「……」
 二人共何も答えなかった。
「知りたいよね?」
 マミがうなずかせるようにした。
 チアキがわずかに頭を動かしたように見えた。
「う〜ん。こっちの|娘(こ)はうなずいたけど、もう一人は……」
「ミハルはどうなの?」
「……はい」
 そう言うと小さくうなずいた。
 仕切りを開けて、奥のベッドに二人を入れた。
 マミと私もついて入った。
 先生に指図されるまま、二人は並んでベッドに横になった。
「ちょっと採血するわよ?」
「え、舐めて分かるんじゃないんですか?」
 先生は私を振り返って少し笑った。
「簡易検査はそれでもいいけど…… 本当の事が知りたいのよね?」