授業の準備というのは、配布する紙のテキストが入ったダンボールを運ぶことのようだった。
 何個かのダンボールを台車に載せると、佐藤に礼を言われ、教室へ帰って良いと言われた。
 ミハルと教室へ向かう途中、私はたずねた。
「本当に佐藤の言うとおりだったの?」
「さっきのこと?」
 私はうなずいた。
「そうよ。別に変だとも思わなかったけど、確かに壁沿いを触れば灯りをつけることは出来たわね」
「佐藤に変なことされてない?」
「?」
 今回はこっちの思い過ごしか。
「何か、疑ってる?」
「え?」
「私、疑われているよね」
「ミハル、何言っているの?」
「言葉で言って」
「急に言われても」
「キミコ」
 ミハルは立ち止まった。
 真剣な顔で見つめられ、これをごまかすことは出来ないと思った。
「疑っているよ。何か変なバイトしているんじゃないかって」
「バイト?」
「だって、急に色んなもの買ってるじゃない。お小遣いの範囲じゃないくらい。なんかヤバいバイトしているって」
「ヤバいバイトって何」
「その…… 何ていうか。援交的な?」
 ミハルは呆れたような顔をした。
「親のカードで買っただけよ。転校してくる時にロクな着替えも持ってこなかったから」
「……」
 佐津間がズボンを直す仕草をしていた時のことがきになっていた。
「佐津間達と渡り廊下に居た時とか」
「……あ。ああ」
 厳しい顔のミハルが、急に笑いだした。
「佐津間がばズボンをこうやった話?」
 私はうなずいた。
「佐津間のベルト、買ったまま切ってなかったのよ。切って使うこと知らなかったみたいで」
「へ?」
「だから、金具のところがこうやって外れるって説明してた
 ミハルは、また笑った。
「寮に帰ったら、そこを開いてベルト切りなさいって」
「本当?」
「こんな嘘言わないわ。なんなら本人に聞いてみたら?」
 佐津間ならありえるか、と思えた。
 教室にもどると、タブレットで佐津間にたずねた。
『佐津間はベルトを切って使うってミハルに教えてもらったの? 別にあんたを笑おうと思って質問しているんじゃないから。真剣に答えて』
 直接聞くと周囲の目があって、言わないか、否定すると思ったからだ。
 送ったメッセージに気付いた佐津間がチラッとこっちを見た。
 私はふざけていない、という顔をみせた。
 すると、メッセージが返ってきた。
『その通りだよ。ミハルに教えてもらった』
 メッセージだけを読むと意味深だったが、単にベルトの使い方を教えてもらったのだ。
 なんだ…… そんなことだったのか。
 私はさっきのミハルの笑い顔を思い出して、笑ってしまった。
「どうしたのキミコ、急に笑いだして」
 マミが不思議そうにきいてきた。
「なんだよ、面白がるためじゃないって書いてあったじゃないか」
 佐津間が立ち上がって怒ってやってきた。
「ごめん、佐津間を笑ってるんじゃないの」
 そう。安心したから。ミハルが変なことしてないって安心したから笑っているの。あなたを笑っているんじゃない。
 しばらく、私は一人で笑いつづけていた。



 寮の部屋に戻ると、マミとミハルにそのことを話し、三人で笑いあっていた。ラブホに入った理由もお互い、おなじような理由だった。ミハル達は服を汚してしまったからだった。私達の理由もミハルに話した。
「そんなに巨乳に変われるの?」
「ほら、こんな感じ」
 マミがスマフォの写真を見せる。
「こんなだったら肩がこりそう」
「ニセモノだけど、たしかに肩はこったよ」
「胸も腫れたしね」
 マミが付け加えた。
「それを繰り返せば、本当に胸が大きくなったんじゃない?」
 ミハルが笑いながらそう言った。ミハルの冗談を初めて聞いた気がした。